#10 男性育休取得に向けた5ステップ⑤「男性育休に向けた最大の関門“社内承認“〜上司を説得しよう〜」

育休取得5ステップ

昨今男性育休の普及に関するニュースが耳目を賑わせています。男性の産休制度の創設や育児休業給付金の普及率の引上げなどの男性育休普及に向けた政策が政府において具体的に論議されています。その中でも一際センセーショナルだったのが男性育休義務化です。

男性育休義務化の論議の背景には、男性育休普及に関する個人に対する働きかけへの諦めがあります。従前は個人に対して男性育休を推進すべく制度の拡充やイクメンプロジェクト等を政府は実施してきました。今や我が国の男性育休制度は取得期間や給付率等を総合して世界1位という評価を得ていますし、イクメンプロジェトも社会的なムーブメントになりました。しかし、男性育休取得率は直近での2019年度の統計でも7.48%と低迷しています。そこで、個人に対する働きかけでは限界と判断した政府は、方針を転換して企業に対する働きかけを始めました。その強烈なテコ入れが「男性育休義務化」です。

こうした男性育休義務化の背景にある「個人に対する働きの諦め」の要因とはなんでしょうか。それは、男性育休の普及を阻む最大の要因は男性育休取得をおくびにも言い出しづらい職場の雰囲気にあります。その雰囲気を乗り越えて社内承認を勝ち取ることは非常にエネルギーの必要なことです。このプロセスを経る位であれば男性育休は取得しないほうがましと諦めてしまっている方がほとんどです。

そんな状況ですから男性育休の社内承認を得るには正攻法でいくと軋轢を生む可能性があります。そこで、今回は社内承認プロセスを出来るだけスムーズに経るためのヒントを3点お伝えできればと思います。具体的には「承認順序」「想定Q&A」「社内の仲間」です。そして、最後に職場で初めて男性育休を取得したシカゴリラがどのように四苦八苦しながら社内承認を得たのかを記載します。

準備①社内承認の順序〜“トップダウン“ or “ボトムアップ“〜

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社内承認の順序として“トップダウン“か“ボトムアップ“でいくのかという問題があります。トップダウンとはすなわち「人事部→部長→上司」という承認順序で、ボトムアップとは「上司→部長→人事部」という承認順序です。

これはどちらもメリデメがありますので、以下にまとめておきます。

■トップダウン
○メリット
・人事部が育休を所管
・人事権に沿った承認順序
・失敗した場合のダメージが少ない
・説得力を持って上司に説得できる
○デメリット
・人事部から情報が漏れた場合に上司の心証が悪い
■ボトムアップ
○メリット
・物事の道理に沿っている(本来あるべき承認プロセス)
○デメリット
・人事部との連携(制度説明や育休経験者の紹介等)ができていないため上司への説明に説得力が欠ける可能性がある
・上司に反対された場合に承認が頓挫する可能性が高い

両者ともにメリデメがあるのですが、トップダウンの方が成功確率が高く、失敗してもダメージが少ないためお勧めです。

トップダウンがお勧めな理由

具体的に何がお勧めなのかを上記のメリデメを詳述していきます。

メリット①人事部が育休を所管

人事部は育休が規定されている就業規則を司る部署です。自分で作った規則に則って育休申請をする社員を蔑ろにするのは本分からかけ離れた行為です。そのため、人事部は男性育休取得に対して基本的には前向きに対応してくれるはずです。例えば、育休制度について就業規則を自分で確認したり、育児休業についてハローワークに問い合わせたりしてみても、細かい内容や申請手続きについては不明瞭な点が残ることがありますが、人事部に質問すれば業務としてきちんと回答してくれます。また、社内の過去に育休取得者がいれば紹介してくれるかもしれません。まずは育休を所管する人事部から問い合わせるのがオススメです。

メリット②人事権に沿った承認プロセス

社内の人事権は基本的には人事部(人事グループ)が持っています。部長ともなれば役員が人事に口出しをすることもありますが、男性育休を取得するボリュームゾーンである20代後半から40代前半の社員の人事はほぼ人事部の一存で決まります。そのため、人事部がOKを出した内容をひっくり返すのは容易ではありません。

育休についても、まずは人事部に相談して味方に付けましょう。そうすれば、部長や上司といえどもおいそれと反対はできなくなります。偉い人ほど人事部の心象を気にしたりするものです。このように、人事権のからくりを利用してまずは男性育休について人事部に相談するのがおすすめです。

メリット③失敗した場合のダメージが少ない

男性育休を取得する際に人事部で「No」と言われることは多くないはずですが、もしかしたら「No」と言われる可能性があります。

例えば、就業規則に育休について記載がなく社内に育休制度がない場合、育休制度はあっても女性を対象として制度を作っているため男性には適用できない場合、人事部として男性社員から育休により欠員が出ることを容認できない場合等が考えられます。こうした場合にボトムアップの承認プロセスを経ると、苦労して上司や部長から承認を得たのに、人事部で「No」と言われるという最悪の結果を生みます。苦労は水の泡ですし、仕事の段取りができていないと評価され部長や上司の心象を害する可能性もあります。そうならないように、まずは人事部に相談して男性でも育休制度を利用できるか、また、申請手続きについてもきちんと確認しておきましょう。

メリット④説得力を持って上司を説得できる

育休取得についての最難関は上司です。自分の配下の部下が育休を取得することになれば空いた穴を埋めるために業務調整をしなければなりません。育休期間中に補給要員が来ればいいのですが、期中で数ヶ月〜一年程度不在にする育休のために追加要因を当てがうことは容易ではありません。そのため、多くの場合で育休中は職場に欠員が出ることになります。例えば、部下が5人のチームで1人欠員が出るというのは他の職員にとって非常に負荷がかかることです。こうした調整を上司が担うのですから、上司は基本的には育休について理屈の上では必要なのは分かっていても、内心は「本当に!?」と思っています。

そんな上司を説得するため大切なことは2つあります。

一つ目は事前に外堀を埋めて置くことです。トップダウンで承認プロセスを経ていれば、既に人事部や部長には相談済みですので、むやみに「No」とは言えません。「No」と言えば、逆に上司が人事部や部長に「No」たる理由を説明しなくてはなりません。

二つ目は上司の説得するに足る準備をしてする観点です。上司に育休について相談をする際には、おそらく様々な質問をされることになると思います。

何故育休を取得するのか?
育休期間はどのように決めたのか?
金銭面の負担は大丈夫なのか?
奥さんはどう考えているのか?
人事制度上、男性も育休を取得できるのか?
業務引き継ぎはどうするのか?
「復帰後の希望はあるか?」
「キャリアロスにはつながらないのか?」
「時短勤務や在宅勤務ではダメなのか?」
「人事部には話しているのか?」
「思い直してくれないか?」

こうした質問が容易に想定されます。質問を受けて答えに窮してしまっては「もう少し考えてから具体的に検討してみよう。」とはぐらかされてしまう可能性もあります。そうした隙を与えないためにも入念な準備が必要となります。その準備として人事部への相談が必要になります。つまり、上記の質問の中でも「人事制度上、男性も育休を取得できるのか?」や「人事部には話しているのか?」といった質問については人事部が絡んでくる内容です。人事部に事前に相談しておきましょう。

トップダウンについて気をつけること

人事部への相談を初めに行うトップダウン型の承認順序がオススメである理由を4つ説明しましたが、一方で気をつけなけければならないこともあります。それは、人事部への相談が上司に漏れる可能性です。

人事部は社員の個人情報を多く保有しますのでコンプライアンス意識は強いはずですが、意外と人事部の情報は漏れていることがあります。男性育休取得のように耳目を集めるテーマについては日常会話にも出てくるものです。

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例えば喫煙所でこんな会話があったらどうでしょうか。

上司A「最近男性育休が結構話題になってるけど、男性育休取得した人って会社にいるのかな。」
人事部スタッフB「有給取得して1週間くらいなら沢山いるけど、所謂育児休業を使って長期間にわたって取得したって人はほとんど聞かないな。」
上司A「けど、これからは男性も家事や育児への参加が必要になってくるから、うちの会社でも推進して行った方がいいというか、Bさんが推進していくのか。頑張ってね。」
人事部スタッフB「そうなんですよ。けど、人事部としては長期の育休はなかなか推進し辛いんですよね。現場の30代の職員が抜けると結構ダメージが大きいですからね。」
上司A「誰か手をあげてくれて、会社のモデルケースができるとPRだろうね。」
人事部スタッフ「そうなんですよ。(少し沈黙の後)オフレコなんですけど、実はAさんの部下が育休取得を検討しているみたいで、私のところにコンタクトがあったんですよ。Bさんにも折を見て相談しようと思っていたのです。」
上司A「えっ、そうなの…。」

上司は自分に報告もなく人事部に対して相談していたということで気を害する可能性があります。そうなると、上司への説明において男性育休取得について了承を得るためのハードルが上がる可能性があります。

こうした事態を避けるためにも、人事部に相談する際は上司には相談しておらず他言無用である旨を明確に伝えた方が良いでしょう。

準備②想定Q&Aを用意しよう

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育休の社内承認プロセスにおける最難関は“上司(もしくは部長)の了承“です。部長も上司も理解がある人でスムーズに承認を得られる場合もあるとは思いますが、それは結果論で、説明をする前には分かりません。どう転んでも対応できるようにしっかりとした想定問答を作成しましょう。特に、上司(もしくは部長)への説明時に育休に対して難色を示され厳しい質問を問いかけられた際に、答えに詰まるようでは育休取得は叶わぬ夢になりかねません。

では想定Q&Aを準備していきましょう。

想定Q&A①「何故育休を取得するのか?」

第一子出生児において私が育児参加できずに妻に負担をかけました。その結果、妻が産後うつの症状が出ました。第二子出生時には第一子の育児だけではなく、第二子の育児をしなければなりません。妻だけに家事や育児を負担させるのではなく、私自身もパートナーとしてしっかりと妻を支える必要性を感じ、育休を取得しようと考えました。

想定Q&A②「育休期間はどのように決めたのか?」

育休期間については、育児期間ごとの父親の役割を踏まえて検討しました。産後の床上げまでの期間や産褥期においては上げ膳据え膳が基本となりますので、家事や育児については極力私が担いたいと考えています。産褥期を過ぎても産後うつになる可能性はしばらく続きます。第一子出生時に産後うつの症状が出たのも生後半年を過ぎてからでしたので、この時期においても出来る限りサポートしていきたいと思っています。そのため、職場にはご負担をかけるとは存じますが、育児休業制度で認められている最長期間である1年間の取得を考えています。

想定Q&A③「金銭面の負担は大丈夫なのか?」

金銭面の負担については十分に検討し、余裕はありませんがやりくり出来るとと考えています。具体的には、育児休業中は育児休業給付金を給与の67%受領でき、かつ社会保険料なども控除されないので、実質的には給与の80%が支給されることになります。そのため、節約をすれば毎月の生活費を賄うことができるので、収支面は問題ないと思っています。ただ、色々調べてみると、現金には気をつけなければならないようです。育児休業給付金の払込が3ヶ月近く遅れるそうですので、育休直後は貯金残高が大きく目減りします。こうした点も踏まえて金銭面については大丈夫だと考えています。」

想定Q&A④「奥さんはどう考えているのか?」

妻には妊娠直後から十分に相談しています。育休期間や金銭面の負担といった事項についても妻と相談しながら検討をしてきました。妻と私で育休に対する考えや気持ちは一致しています。

想定Q&A⑤「人事制度上、男性も育休を取得できるのか?」

上長の了承を得ずに、勝手なことをして申し訳ありませんが、事前に人事部の育児休業の担当者には男性でも育休を取得できるか問い合わせをしまして、男性でも問題なく育休を取得できることを確認しました。」

想定Q&A⑥「業務引き継ぎはどうするのか?」

業務引き継ぎについては、今後同僚と調整していきたいと思っています。ただ、これまでも出張や長期休暇等で業務を引き継いでもらったことがあるため、育休開始までに十分な期間をかけて引き継ぎをすれば問題ないと思っています。

想定Q&A⑦「復帰後の希望はあるか?」

復帰後についてはまた現在の部署で働かせていただきたいと思っています。ただし、人事につきましては様々な状況を鑑みて決まるものであることも承知しておりますので、最終的なご判断はお任せいたします。

想定Q&A⑧「キャリアロスにはつながらないのか?」

育休中は一時的に仕事から離れてしまうため、会社の業務という意味ではマイナスがあるかもしれません。そのため、育休中も隙間時間を見つけて復帰後に役立つような勉強や資格取得に励みたいと思っています。加えて、これは育休の捉え方の問題かもしれませんが、育休は休暇ではなく育児出向だと考えています。新しい家事や育児という業務に就くという思いで働こうと思いますので、育休というのも一つのキャリアだと捉えています。

想定Q&A⑨「時短勤務や在宅勤務ではダメなのか?」

時短勤務や在宅勤務も検討しましたが、育休は家事や育児に向き合う大切な時間だと思っています。そのため、できることであれば全力で家事や育児に取り組んでみたいと思っています。ただ、業務負荷の観点で仕事をする必要が生じれば、そうしたフレキシブルな働き方についても検討させて頂きたく存じます。

想定Q&A⑩「思い直してくれないか?」

業務の引き継ぎや残された同僚の業務負荷等に鑑み、時短勤務や在宅勤務の活用や育休条件の変更については柔軟に検討させて頂きたいと思ってます。ただ、育休については第一子の反省も踏まえて家族で十分に話し合った結果として出した結論ですので、申し訳ありませんが取得させて頂きたく存じます。

こうした想定Q&Aは私が考えていたものですが、今後育休を取得される方においても共通する部分があるのではないでしょうか。よかったら参考にして、上司(や部長)への説明に向けて準備をしてみてください。

準備③社内に仲間を見つけよう

育休の社内調整を始める前に社内に仲間を見つけましょう。仲間を見つけることで、育休について相談したり、アドバイスをもらうことができたりと、自分の育休取得に関する考えが明確化するかも知れません。また、万一職場で波風や軋轢が生じた時に味方になってくれるのも同志です。以下では具体的な仲間となりうる組織や人を見ていきましょう。

まずは、人事部です。トップダウン型の承認プロセスでも触れましたが、人事部を味方につければ部長や上司といえど育休取得についておいそれと「No」を突きつけることはできなくなります。最強のサポーターです。是非「困ったことがあったら相談に乗ってください。」と事前に伝えておきましょう。

次に、職場の同僚です。職場に仲の良い同僚がいれば上司に相談する前に育休について話しておきましょう。育休中に迷惑をかけるかもしれませんし、育休取得について職場に波風が立ったり軋轢が生じた場合に緩衝材の役割を果たして売れるかもしれません。

また、育休経験者も大切です。人事部に相談をした際に男性育休の経験者がいれば紹介してもらえないか聞いてみましょう。男性育休の関する文化や取り巻く環境は会社ごとに異なるので、相談するのであれば社内が一番効果的だと思います。何か困ったことがあれば実体験をもとにアドバイスをくれるかも知れません。また、職場に女性の育休経験者の方がいたら事前に育休について相談してみてもいいかもしれません。親身に相談に乗ってくれるかもしれません。ただし、噂は広がりやすいので相談相手は慎重に選びましょう。

もし気心の知れた役職者(役員や部長級)がいたら、事前に話をしておきましょう。これは、育休取得について仁義を通すという意味もありますし、加えてトラブルが起きたときに味方になってくださるかも知れません。

あとは、労働組合も本来は力になってくれてもいいのかも知れません。育休取得を会社として認めないような強硬な態度に困り、団体交渉が必要な場合は覚悟を決めて問い合わせてみてもいいかも知れません。ただ、労働組合は会社との交渉が主なので、事前に仲間になってもらうというよりも、交渉がもつれた時に頼るというのが現実的でしょうか。

このように、「人事部」、「同僚」、「育休経験者」、「役職が上の方(役員や部長級)」等に育休取得について事前にお伝えして仲間になってもらいましょう。育休取得は一人で取得すると荷が重いですが、みんなのサポートがあると不思議と勇気が湧くものです。是非仲間を探して見てください。

ケーススタディ:シカゴリラの場合

社内調整の準備が完了したら、社内承認プロセスをスタートすることになります。そこで、シカゴリラがどのように社内承認を経たのかを一例として記載していきます。

人事部へ問い合わせる

私が会社内のアプローチを始めたのは出産の7ヶ月前でした。妻のつわりが始まってしばらくした頃でした。

就業規則について一通り確認し、育児休業制度についても厚生労働省のHPを見ながら理解した上で、人事部にメールで問い合わせをしました。

🦍「○部のシカゴリラと申します。現在妻が妊娠3ヶ月で、安定期ではないの不確実性はありますが、11月頃に第二子が出生する予定です。まだ職場で具体的に相談した訳では無いのですが、育児休業の取得を検討しています。育児休業について以下3点質問させてください。
①貴部管轄の就業規則及び育児休業附則を拝読し、男性でも女性と同様に育休を取得できると認識しておりますが、誤解があればご指摘ください。
②育児休業制度に関する参考資料や規定がありましたらご連携いただけないでしょうか。
③これまでに男性で育児休業を取得された方がいらっしゃいましたらご紹介いただけないでしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。」

👩「承知しました。①についてはご認識のとおり、女性と同様に男性も育児休業を取得できます。一方で、申請手続きについては男性が女性と同様で良いのかについて部内で確認いたしますので、少々お待ちください。②については資料をご連携いたします。③については短期の育児休暇を取得した方はいますが、育児休業はいません。ただ、前例がないだけで、これからは必要に応じて男性も育児休業を取得できる会社にしないといけないと考えています。そのため、シカゴリラさんの育児休業取得についても前向きにご検討下さい。」

🦍「質問にご丁寧に回答いただきまして、ありがとうございます。男性でも育児休業を取得できるとのことで承知いたしました。加えて、男性育休の事例はないとのことで残念ですが、暖かい励ましのお言葉を頂戴して感謝いたします。今後部内での承認をする際に何かありましたら相談させていただいてもよろしいでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。」

👩「承知いたしました。何かありましたらご相談ください。」

こうして、人事部とのやりとりが終わりました。後日に申請手続きについても女性と同様で良いとのことを教えて頂き、男性でも育児休業を取得できることや申請手続きについて確認することができました。加えて、困ったときは人事部に相談できる約束も得ました。社内調整の第一歩としては上々の出来となり、ほっと胸を撫で下ろしました。

部長にお伺いを立てる

シカゴリラの育休取得時には所属する部とは物理的に離れた場所で勤務をしていたため、部長に会う機会というのが半年に一回程度という状況でした。そのため、本来は直接お会いして相談をするのが趣旨なのですが、優しい部長ということも手伝って、まずはメールをしました。

部長は忙しいのでメールは朝一と決めています。しかも、こういった重たい案件は週末前の金曜日に限ります。そのため、シカゴリラは前日の木曜日の夜に送信するメールを準備しておき、翌朝始発に乗って朝6時に会社に出社してパソコンを立ち上げると同時にメールを送信しました。

🦍「おはようございます。シカゴリラです。
現在妻が妊娠3ヶ月で、安定期ではないの不確実性はありますが、11月頃に第二子が出生する予定です。第一子出生児において家事や育児について妻に負担をかけてしまったため、第二子出生においては私自身出来る限り妻をサポートすべく育児休業の取得を検討しています。
現在人事部に男性の育休制度や育休申請に問い合わせている段階ではございますが、少なくとも制度上は男子でも育児休業を取得できる旨は確認いたしました。今後育休取得について上司と相談をする前に事前にお伝えしてさせていただくのが筋かと思い連絡いたしました。
本来はお会いした際に直接ご相談すべき事項ではございますが、なかなかお会いする機会もないですし、業務ご多忙の折にお時間を頂戴するのご迷惑かと存じます。まずは、メールにて失礼させて頂きます。」

メールを送信したのちにしばらくドキドキが止まりませんでした。部長に「No」と言われれば育休を“諦める“か“全面戦争“になります。私の会社人生でも大きな岐路であることは間違いありません。しばらくして鼓動の収まりを感じてから平静を装いながら日常業務に戻りました。1時間ほどして上司が出社してくると何くわぬ顔で「おはようございます。」と挨拶はしますが、ちょっと後ろめたい気持ちがありました。

朝一では部長から返信は帰ってこなかったのですが、夕方に打ち合わせから戻ってきてメールボックスを確認すると返信がありました。

👩「奥様の妊娠おめでとうございます。育休取得を考えていることについて承知しました。会社としても男性育休を推進しているため、人事部と上司と相談しながら前向きに検討してください。」

上司は育休取得について好意的に受け止めてくれました。「あ〜、よかった。」と胸を撫で下ろしました。人事部と部長が味方になってくれれば百人力です。私の育休取得が7割は確定したと思いました。

上司への相談

部長からの返信を受けて意気揚々となったシカゴリラはその勢いで上司にも相談しようと思いました。そのため、部長から返信を受けたのが金曜日の夕方でしたので週明けには上司に説明しようと決意しました。

週末はどのように説明するのか頭の中でシミュレーションをしていました。まずは、部長の時と同様に早朝出社からの育児休業について相談がある旨をメールし、上司が出社してメールを読み始めた頃を見計らってご相談に上がろうと思いました。

そのため、月曜日はメールの文章を作って、火曜日の早朝にメールを送信しました。

🦍「おはようございます。シカゴリラです。
妻が妊娠いたしました。現在妊娠3ヶ月で、安定期ではないの不確実性はありますが、11月頃に第二子が出生する予定。第一子出生児において家事や育児について妻に負担をかけてしまったため、第二子出生においては私自身出来る限り妻をサポートすべく、育児休業の取得を検討しています。
上長にご相談する前に大変恐縮ではございますが、人事部には事前に男性でも育児休業を取できる旨は確認いたしました。また、部長にも事前に育休取得を検討している旨はお伝えし、上長と相談するように指示を受けております。お忙しいところ大変恐縮ではございますが、育児休業について相談させて頂くお時間を頂戴できれば幸いです。」

上司が出社してくると、パソコンを開いてメールをチェックし始めました。そして、5分くらいするとこちらをチラッと見られたので、席を立ち上長の元に伺いました。

👨「メール見たよ。だいたい分かった。ちょっと向こうに行って話そうか。」

🦍「承知いたしました。」

打ち合わせ室に移ります。

👨「育休か〜。男性も育休を取得する時代になったのか。」

🦍「世間的にも男性育休の注目が集まっていますが、私も父親として家事や育児に出来る限り携わっていきたいと思っております。そのため、育児休業を取得させて頂きたく相談させてください。」

👨「分かったよ。もう、人事も部長も概ね了承しているんでしょ。」

🦍「ご認識のとおりです。ただ、部長は育休期間や業務引き継ぎなどの具体的な内容については上長と相談するように指示をいただいています。」

👨「そういうことね。育休期間はどれくらいを検討している?」

🦍「育休期間についてはご相談かと思っておりますが、第一子出生児に家事や育児を妻にほとんど任せてしまい負担をかけたので、今回(第二子)は出来るだけ家族のサポートをしたいです。育児休業は制度上は1年間取得ができるため、可能であれば1年間取得したいと考えています。」

👨「1年間か。仕事は大丈夫かな。育児休業で欠員が出た場合は要員が補給されるのかな。」

🦍「その点については人事部に現在確認しております。女性の育児休業の場合は欠員のままで補給はされないことが多いと伺っていますが、男性の育児休業については例もほとんどないことから人事としても検討が必要なのかもしれません。」

👨「そうか。男性社員の育児休業ってあまり聞かないよね。人事もきっと男性の育児休業の取得例が欲しいんだろうな。」

🦍「そういう面もあるかもしれません。」

👨「業務の引き継ぎはどうする?」

🦍「基本的にはサブリーダーに業務を引き継ぎます。これまでも私が不在中には私の業務を担ってくれていたことがあるので、育休取得までの期間でしっかりと引き継げば問題ないと思います。」

👨「そうだな。彼は優秀だからな。同僚に恵まれたな。」

🦍「本当におっしゃるとおりです。」

👨「いや〜、育休か。もう、人事も部長もOKしてるのであれば何もいうことはないけど、業務引き継ぎや育休申請については適宜連携してね。」

🦍「承知いたしました。適宜連携いたします。」

👨「差し当たり私がやらなといけないことはある?」

🦍「特にはありません。申請手続きについては部長の承認が必要と人事部から聞いていますので、手続き自体は上長の手を煩わせることはありません。業務引き継ぎについては改めてご相談させていただければ幸いです。」

👨「とりあえず、育休については分かった。部長とも相談してみるよ。」

こうして上司にも育休取得について了承いただきました。きっと、内心では色々と思うところがあったでしょうが、そういった気持ちを押し殺して柔和な対応をしてしてくださったことを大変感謝しています。

その後上司は部長と相談して、部長からチームメンバーに対して私が育休を取得する旨を説明することになりました。部長は負担のかかるチームメンバーに対して部として協力して対応していこうという内容の説明をしていただきました。職場の同僚達においても色々と思うところがある人はいると思いますが、部長がきちんと説明してくれたことで職場で変な波風や軋轢が生じることはありませんでした。私は上司にも同僚にも恵まれたと感じました。感謝しかありません。

最後に

男性育休の取得の最大の関門となる社内承認について記載しました。

社内承認を取得するための準備として、「承認順序」としてはトップダウン(人事部→部長→上司)オススメであること、また、「想定Q&Aの準備」や「仲間を募ること」という3点について説明しました。

その上で、シカゴリラの社内承認を取得する過程をご参考までにお示ししました。

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現在実施中のアンケート調査によれば、育休取得希望者のうち実に31.7%もの方が育休を取得を希望しながらも具体的な行動を起こさずに断念しています。また、職場の同僚や上司、会社の人事部門に対して社内調整をした人は育休取得希望者のうち10%に満たないことが分かってきました。

私自身、社内調整を始める段階で勇気が要りました。もし調整に失敗したら職場に変な雰囲気が流れるかもしれないし、もしかしたら、職場に居づらくなるかもしれないとも思いました。けど、勇気を出して人事部門に相談してみたところ好意的な反応を受け、そこからは比較的スムーズに社内承認のプロセスが進みました。

育休取得を検討されている方の中には私と同じように社内調整を始めるにあたって一歩を踏み出すのを躊躇う方もいると思います。そして、こうした躊躇いが原因で育休を断念する方も多くいると思います。けど、それはとてももったいないことです。

昨今の男性育休義務化の論議に見られるように日本という社会から見ると男性の育休は必要です。日本には育休を取得するということは職場に穴を空けて同僚に迷惑をかける行為だという認識が強くあります。しかし、そうした認識は会社の論理です。日本という社会を見た時に労働人口が減ってきて女性の労働力の重要性が増していると共に、少子高齢化に伴い次世代を担う子供達を生みやすい環境を作っていかなければなりません。こうした状況において、職場に迷惑がかかるため男性は育休を取得しないということは、“会社の論理“としては取得を躊躇したとしても、より大きな視点である“日本という社会の論理“から見れば非常にもったいないことです。

そんな”もったいない”という考えを後ろ盾に、是非社内調整に向けた一歩を踏み出してみてください。

現在多くの良識ある企業経営者や管理者は男性育休の必要性を頭では認識しているはずです。しかし、目の前に育休を取得したいという男性従業員を前に、育休中に業務が回るのかとか、育休に関する事務手続きは出来るのかとか、少し戸惑うのものです。あなたが一歩を踏み出せばきっと、良識ある経営者や管理者を含めた皆が一歩を踏み出すはずです。もしかしたら、そんな勇気ある一歩を踏み出す社員を待っているかもしれません。

そうであれば、もう迷う必要はありません。ぜひ前を向いて一歩を踏み出して下さい!すると、今までは荊棘の道だと思っていた道のりが、荊棘は既に無くなりただの山道になっているかもしれません。もしくは、既に先人が通った道が残っているかもしれませんし、幸運な事に人事部門がエスコートしてくれるかもしれません。是非、育休、特に長期育休を検討されている方がいましたら勇気を出してはじめの一歩を踏み出してみてはどうでしょうか。

長文を最後まで読んでいただきありがとうございました。
皆さんのコメントが執筆の励みになります!

男性育休取得に向けた5ステップ

①パートナー(ママ)への相談

②社内育休制度の確認

③育休期間の検討

④金銭面の検討

⑤社内承認

コメント

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