【データで見る男性育休】男性育休取得率が30%の社会とは!?「3つ視点」と「7つの課題」!

データで見る男性育休

厚生労働省の発表によれば、我が国の男性育休取得率は2018年度において6.16%と低迷しており、直近の2019年度においても7.48 %(+1.32pt)と微増に留まっています。そのため、政府が掲げる「2020年に男性育休取得率13%」の達成は難しい見込みとなっています。

育休取得率が低迷する現状を受けて、政府は2025年までの少子化対策の指針となる「少子化社会対策大綱」において育児休業取得率を30%まで引き上げる目標値を閣議決定し、男性育休取得率の普及に向けて様々な政策を検討し、取得率引上げを強力に推進しています。

男性育休取得率が30%に引き上がることでパパの育児参加が促されると共に、ママの育児負担が軽減されることは素晴らしいことです。ただ、パパの30%が育休を取得する社会とはどのような社会なのでしょうか。職場を支えるパパ社員の30%が育休を取得した場合、今の社会構造のままで何か軋轢や弊害は出てこないでしょうか。

本記事では、男性育休を1年間取得したシカゴリラの目線で、男性育休取得率が30%の社会に向けて今こそ検討すべきことを、「男性育休取得者の視点」、「男性育休をサポートする側の視点」、そして「政府の視点」という3つの視点から検討すべき7つの課題について説明していきます。

  • 検討すべきこと①「パタハラ対策の実効性の担保」
  • 検討すべきこと②「金銭面のサポートの拡充」
  • 検討すべきこと③「精神面のサポートの拡充」
  • 検討すべきこと④「逆パタハラを引き起こさないか」
  • 検討すべきこと⑤「納得間のある負担増の必要性」
  • 検討すべきこと⑥「少子化対策への効果」
  • 検討すべきこと⑦「男性育休義務化の実効性の担保」

視点その1「男性育休取得者へのサポートの拡充」

一つ目の男性育休取得者の視点としては、「パタハラへの対応」、「金銭面のサポートの拡充」、「精神面のサポートの拡充」といった3つの検討すべきことを説明します。

検討すべきこと①「パタハラ対策の実効性の担保」

パタハラとは「パタニティ・ハラスメント」の略称です。パタニティとは「父性」を表し、ハラスメントは「いやがらせ」という意味ですので、男性の育休取得を含む育児参加に伴う職場での不当な扱いを指し示す言葉です。

例えば、以下のような場合がパタハラに該当します。

  • 男性育休を取得しようと上司や人事部門に相談したが不当に取得を拒絶、もしくは取得期間を短縮された。
  • 男性育休を取得申請をした結果、職場の同僚から嫌がらせを受けた。
  • 男性育休から復帰後に、不当な職場の配置換えや減給、降格処分、昇進の遅延等の不利益を受けた。

こうした育休に伴うハラスメントは法律によって明示的に禁止されています。具体的には、育児・介護休業法10条において、労働者が育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由として当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています。

しかしながら、パタハラは実際問題として起きています。

カネカ事件

カネカHP

2019年に東証1部上場企業で子育てサポート企業として厚生労働省に認定された「カネカ」という企業においてパタハラが生じました。カネカに勤務する男性社員が育児休業明けに不当な転勤を命じられてやむなく退職するという出来事がありました。男性社員の妻がTwitterにおいて男性の不当な処遇について投稿したことで明らかになりました。

ツイッターの投稿は以下のとおりです。

「信じられない。 夫、育休明け2日目で上司に呼ばれ、来月付で関西転勤と。先週社宅から建てたばかりの新居に引越したばかり、上の息子はやっと入った保育園の慣らし保育2週目で、下の子は来月入園決まっていて、同時に私は都内の正社員の仕事に復帰予定。」

ツイッター

社内的にどのような判断があったのかは分かりませんが、育休明け2日目に転勤が命じられたというのは不当な処遇が疑われる出来事です。加えて、問題を大きくしているのは、カネカが厚生労働省により「子育てサポート企業」として認定され、「くるみんマーク」を取得していたことです。子育てサポート企業と認定された東証1部上場企業ですらパタハラが起こってしまったことは社会に衝撃を与えました。

このように、男性社員が育休を取得することによる不利益、つまりパタハラを被らないような法律が整備され、そして、子育てをサポートする企業を認定する仕組みがあるにもかかわらず、パタハラが実際に起こっています。パタハラという不幸な経験をしないためにも法制度の遵守や会社組織のガバナンスのあり方について検討すべきではないでしょうか。

コラム:男性育休取得者の自己研鑽
男性育休取得者は育休中は育児や家事に従事することになりますが、その多くが休業中に新しいことを始めています。
その中には自己研鑽を目的とした資格取得や語学学習、読書等を始めている人もおり、男性育休取得者においてもキャリアアップへの意欲、キャリアロスやパタハラへの懸念から育休取得中に早朝や子供の夜といった子供の就寝中を中心に自己研鑽に励む人が少なからずいることがわかります。

検討すべきこと②金銭面のサポート〜「育児休業給付金の拡充」や「制度説明の充実化」〜

男性が育休を取得する際にボトルネックとなるのが金銭面の負担です。子育て世代は生活費や養育費といった出費が重く、加えて、家を購入して住宅ローンを抱えている場合や、中には、学生ローンの返済をしているケースもあり、金銭的な余裕がわずかな中で家計をやりくり場合もあります。

育児休業中は育児休業給付金が受領でき、かつ、社会保険料等の控除を受けられるため、実質的に手取りでは育休取得前の給与の約8割を受領できると言われています。手取りで8割という水準は国際的に比較した場合も非常に高水準であり、国際機関の調査においても日本の男性に対する育児休業制度は世界でも最も充実している言われています。ただし、現実問題として、金銭的な余裕がわずかな中で2割が削られるというのは大きな負担になる場合もあり、育児休業の取得を断念する理由になり得ます。

加えて、貯金額に数十万円単位で影響を与えうる給付金に関する注意点が3つあります。

注意点①ボーナスは計算対象外

1点目は、「休業開始時賃金日額」に(保険料等が控除される前の金額なのは有り難いですが)ボーナスは含まれません。例えば、年収600万円(内、ボーナス120万円)であれば、年収480万円で換算されます。

注意点②育児休業給付金の上限有り

2点目は、賃金月額(休業開始時賃金日額×支給日数)の上限が456,300円(令和2年8月以降)に設定されているため、給付金として受領できる上限は456,300円×67%=304,352円になります。逆に言えば、ボーナス控除後の年収が5,475,600円(456,300円×12ヶ月)を超える場合は定額304,352円の支給となります。

注意点③育児休業給付金の支給タイミング

3点目は、給付金が銀行口座に振り込まれるタイミングが実に遅いです。

育児休業給付金は2ヶ月ごとに勤務先の会社とハローワークとの申請手続き後に振り込まれます。例えば、育児休暇を5月1日から取得すると、支給単位2回分(5月分と6月分)の申請手続きを会社が7月1日に以降に行い、そこから1週間程度でハローワークにて申請が完了して支給額が決定し、その1週間から10日後に銀行口座に振り込まれます。そのため、実際の振り込みのタイミングは育休開始から早くても2.5ヶ月後の7月中旬になります。3ヶ月後を想定しておいた方が安全かもしれません。そのため、3ヶ月分の生活費(100万程度)は貯金として蓄えておかなければなりません。

このように、育児休業制度を注意点を踏まえて把握するのに時間と労力を要するため、男性育休取得者が制度を正確に理解できるように自治体や企業が丁寧に説明をすることが必要です。その上で、金銭的な余裕がわずかな中で家計をやりくりしている子育て世代が、育児休業の取得に向けて自助として十分な貯蓄を準備するように促したり、公助として育児休業給付金の給付水準や支払いタイミングの改善に向けた対策を講じる必要があるのではないでしょうか。

検討すべきこと③「精神面のサポートの拡充〜男性の産後うつの防止〜」

「女性の産後うつ」は耳にしたことがあります。産後に女性の体の中ではホルモンバランスが崩れて産後にうつ状態になることがあります。出産後の2週間後から数ヶ月程度の間に発症することが多く、出産後の女性の10%が発症すると言われています。産後うつにかかった女性は育児や家事を担うことが難しく、ひどい場合は死に至ることもあります。実際、産後の女性の死亡率の1位は自殺です

一方で、「男性の産後うつ」という言葉はあまり聞きません。しかし、男性育休経験者からヒアリングしてみると、男性育休経験者6割が“うつうつ“とした気持ちを経験しています。

男性育休経験者のヒアリングやシカゴリラの体験から見えてきたのは、男性の産後うつには3つの主な原因があることです。

理由①「急激な環境変化」

男性育休を取得する人の多くは20代後半から40代前半の男性です。働き始めてから年数が経ち、仕事にも慣れ、知力体力共に優れた時期であることから職場で頼りにされる存在であることが多いです。

しかしながら、育休中は環境が大きく変化します。まず、職場は会社から家庭に移りますし、業務内容も一転します。加えて、勤務形態も週5日1日8時間労働から週7日1日24時間労働(適宜仮眠有り)に変化します。こうした育休に伴う環境変化は精神や肉体にストレスとなります。

理由②「頑張りすぎてしまう」

育休中の父親、特に、育休初期においては環境の変化に順応するため、また、新生児が産まれた喜びから家事や育児を頑張ろうという気持ちが働き、時には頑張りすぎてしまうことも。そうした過度な頑張りは体のストレスとなります。

早い人だと育休に入ってすぐに体に不調をきたす人もいますし、中にはゆっくりとボディーブローのように影響が出てくる人もいます。ゆっくり影響が出てくる人の特徴としては、はじめこそ新生児が家にいるという非日常的な出来事の中で気持ちが高揚しているので気付かないのですが、家事や育児が少しづつ日常に変わってきた頃にこれまで溜まっていたストレスにより不調を来します。このように「頑張りすぎること」は体のストレスとなります。

理由③「思い通りにならない育児」と「蓄積される家事」

新生児の世話は大変です。お腹が空いたことによる不快、暑さや寒さによる不快、オムツが濡れたことによる不快等をまとめて「泣く」という一つの表現で訴えかけます。同じ泣くでも理由はそれぞれ異なり、それを親が斟酌して乳児の要望に応えなくてはなりません。加えて、「黄昏泣き」に代表されるように、ただ泣きたいから泣いていることもあったりします。何が正解かわからない中で「泣く理由」を暗中模索すると心が擦り減っていきます。

新生児の相手をしていると時間はいくらあっても足りず、結果として家事は全く片付かずに食器や洋服が積み重なっていき家の中はめちゃくちゃに。職場で仕事をバリバリとこなしていた父親はこんなはずではなかったとストレスを感じます。

「新型コロナウイルス」が“うつうつ”した気持ちに拍車をかける

新型コロナウイルスによる様々な制限もストレスの原因となります。出産や育児において「新型コロナウイルスだから」と色々なことに制限がかかります。

例えば、「出産の立ち会いはできません」、「産後も赤ちゃんの面会において友人や知人を呼ぶことは控える必要があります」、「お宮参りやお食い初めといったイベントも場合によっては控える必要があるかもしれません」、「外出規制が出れば、子供を連れて散歩に行くのも躊躇われます」。

特に、外出規制で散歩ができないことはストレスとなります。“うつうつ“とした気持ちは、外に出て陽の光を浴びながら散歩すると気分が晴れるものです。しかしながら、新型コロナウイルスで外出規制となる中、家に閉じ籠って家事や育児を続けていると、気分転換をすることができずにストレスが発散されることなく溜まってしまいます。このように、新型コロナウイルスによる行動制限が鬱々とした気持ちに拍車をかけることがあります。

このように、今後男性育休が普及する中で、男性育休にまつわる産後うつの存在が顕在化してきます。男性育休取得者への精神面のサポートの必要が求められるのではないでしょうか。

コラムSNSを通じたパパ仲間との交流
男性育休中のうつうつとした気持ちを解消する手段の一つとしてSNSを通じたパパ仲間との交流があります。新生児の育児はなかなか外に出る機会もありませんし、コロナ禍で外出自体も制限されることがあります。そんな時は、SNSを通じてパパ仲間と育児の大変さや喜びを交流することが気晴らしになったりします。
そんなパパ達の気分転換になればと思ってシカゴリラもTwitter上で「パパ育コミュ」というコミュニティを結成して様々な活動をしています。

視点②男性育休をサポートする社会の視点〜育休を支える社会への納得感のある負担〜

視点の2つ目は「社会の視点」です。男性育休取得者が増加すれば、育休を取得した人の職場の業務をカバーする必要が生じますし、また、育児休業給付金を負担する必要が生じます。

そこで、「逆パタハラを引き起こさないか」、「納得感のある負担増の必要性」について説明していきます。

検討すべきこと④「逆パタハラを引き起こさないか」

上図からも分かるように、育休を取得するということは職場に欠員が出るということ、つまり、職場に残された同僚の業務負荷が増すということです。男性育休を義務化することで働き盛りの20代後半から40代前半の男性社員がいなくなった分の業務負荷を当たり前のように残った同僚に負担させていいのでしょうか。

例えば、

  • 部署に10人の営業マンがおり、朝7時からら夜21時まで必死に働いています。そのうちの1人が育休で職場を離れたらどうなるでしょうか。
  • 部署に3人の常勤医がいる整形外科で午前中は外来を見て、午後は手術にお忙しです。そんな中で1人が育休で職場を離れたらどうなるでしょうか。

こうした状況で残された人にしわ寄せがいく状況は女性の育休でも同様に起こっており、逆マタハラと呼ばれたりしています。つまり、女性育休(マタニティーリーブ)によって業務負荷が周囲の同僚に及びハラスメントが生じるということです。同様の現象は男性育休(パタニティーリーブ)においても起こりますので、逆パタハラと呼称すべき現象でしょうか。

さらに、中小・小規模事業者においては男性育休義務化の与える影響は深刻です。従業員が少ない企業においては働き盛りの一人の重要員が不在となることは、逆タパハラに留まらず企業経営に直結する問題かもしれません。こうした中小・小規模事業者の懸念を反映してか、実日本商工会議所が実施したアンケート調査により、中小・小規模事業者の7割が男性育休の義務化に反対しているという状況にあります。

昨今は働き方改革で不要な業務の見直しを行う等の業務効率化により業務量を削減して早帰りをしたり新しい業務を始めたりという企業の取り組みが行われています。こうして企業が努力して達成した削減業務分で育休取得者の負担を埋めるということでしょう。政府として男性育休義務化を推進するのであれば、逆パタハラという言葉ができないように、企業の自助努力に任せるのではなく政府としても残された同僚達への負担を軽減する、もしくは、モチベーションを上げる対策を検討する必要があるように感じます。

検討すべきこと⑤「納得間のある負担増の必要性」

人の家の懐事情を詮索するのは失礼なことです。そのため、大きなお世話かもしれませんが政府に男性育休を推進するだけの十分な財源はあるのでしょうか。

例えば、毎年の出生数が約90万人(昨年は86万人)として、このうち政府が掲げる目標の30%が1ヶ月間育休を取得したとします。1ヶ月の給付金は約30万円とします。90万人×0.3×1ヶ月×30万円=810億円となります。そこそこ大きな財源ですが。どうするのでしょうか。

育児休業給付金は雇用保険料と国庫負担(税金)から拠出されてます。男性育休が増加した場合の財源を確保するため等を理由として、現在雇用保険の見直し(雇用保険の料率から失業給付と育児休業給付を分離させた上で料率の改定)が検討されていますし、また、将来的に行われる消費税増に伴う税収が充てられるのかもしれません。いずれにしても男性育休の費用は国民(主に労働者)の負担であることは変わりませんから、これを労働者5,000万人で負担するとなると一人当たり年間1,610円程度の負担増となります。

また、現在実施中のアンケート調査の暫定結果によれば、育休取得希望者における希望期間3ヶ月や半年以上の長期の育休取得を希望する声が過半数です。もし6ヶ月間取得した場合は1ヶ月の負担の6倍になりますので4,860億円、一人当たり年間9,660円程度の負担増となります。こうした国民の負担を考慮しながら、男性育休取得者の生活をサポートする側にも納得感のある財源の確保が必要です。

特に、上図にもあるように日本はプライマリーバランスが保てておらず借金が嵩んでおり、そこに、コロナの感染対策や特別定額給付金で財政は傷んでいます。加えて、IMF等からも増税の必要性を勧告される中で、国内外からの増税圧力が高まっています。そうした生活における税負担が増加することが見込まれる状況で、育休給付金の財源を確保のための負担増が納得感のあるものにすることが必要だと感じています。

視点③政府の視点

三つ目の政府の視点として、「少子化対策への効果」と「男性育休義務化の実効性の担保」について説明します。

検討すべきこと⑥「少子化対策への効果」

まず、少子化対策として男性育休は有効なのでしょうか。

2015年に厚生労働省が行った調査から男性の育児参加が多いほど第二子以降の出生が多いことが統計から明らかになっています。男性が育児に参加すればするほど夫婦のパートナーシップが高まり第二子の出生につながる一方で、女性が一人で育児を担う場合は過度な負担となり第二位の出生には消極的になることが要因として考えられます。そのため、第二子以降の出生を促すためには男子の育児参加が求められ、手段として男性育休の義務化が検討されています。

現在実施中の男性育休に関するアンケート調査においても男性育休取得者からも心強い意見が出ています。男性育休取得者に対して男性育休が少子化対策につながるか質問をしたところ、その多くが「少子化対策につながる」という回答でした。夫婦で育児を分担しながら乗り越えることで育児負荷が減るとともに、夫婦としての育児に対する成功体験ができ、第二子以降の出生に繋がりやすくなることが考えられます。このようなデータから、男性育休取得を推進することで第二子以降の出生率増につながることが推察されます。

しかし、気をつけなくてはならない点として、第二子以降の出生に影響を与える要因として考えられる事項はその他にも多くあります。男性育休取得者に対して実施中のアンケート調査によれば、「出産や育児に伴う仕事の不利益」、「保育サービス」、「育児に伴う金銭面の負担」と言った項目についても少子化の原因となっているという結果になっています。本来少子化対策は妊娠、出産や子育てに関するサポートをシームレスに提供してはじめて効果が出てくるものです。男性育休取得率を上げるという数字の一人歩きが生じてしまうと、限りある政策資源が男性育休取得率に偏りすぎてしまい他のサポートが疎かになる可能性があります。男性育休取得率の目標達成を目指しつつも、総合的な少子化対策のバランスを保つことの重要性を認識することも大切だと感じています。

検討すべきこと⑦「男性育休義務化の実効性の担保」

男性育休取得率の引き上げに向けた目玉政策として、政府は男性育休義務化を示しています。

男性育休義務化とは「全ての会社が、男性育休対象者に育休を取得する権利があるということの説明を義務化」を指しています。つまり、説明義務です。

意外と知られていませんが、実は現状でも義務化はされていないといっても、義務に準ずる“努力義務“は課されています。

具体的には、現行の育児・介護休業法においても労働者やその配偶者が妊娠・出産したことを知った場合に企業は労働者に対して育休制度について説明するという努力義務が課されています。ただ、実際には職場で男性社員が育児休業の説明を受けることは一部の育休に積極的な会社のみで、多くの会社では制度に関する説明は行われていません。

この努力義務を一段階引き上げて「義務」にするというのが政府が検討している「男性育休義務化」の狙いです。企業からの説明を義務化することで、従前は労働者から申請があった場合に育休を取得していたものを、会社側に労働者に説明する義務を与えることになります。会社から男性育休についての説明があれば育休取得がしやすくなると思います。

ただ、具体的に「どのように労働者に対して会社が説明するのか」という中身が問題となります。以下に説明義務が会社に課された場合のいくつかのケースを想定してみます。

理想的なケース
育休取得対象者に対して上司又は人事部から個別に育休制度について説明があり、育休取得を勧められる。その上で、上司又は人事部から意向確認の明確なプロセスを通じて育休取得が促される。
想定されるケース
育休取得対象者に対してメールや紙で育休制度を伝える頭紙と就業規則が人事部から機械的に送付される。特に意向確認プロセスはなく、育休取得を希望する者が自発的に申請し、申請が受理される。
悪いケース
育休取得対象者に対して特に何の説明もされない(説明の義務が履行されない)。加えて、育休取得を希望する者が自発的に申請しても、上司又は人事部門から申請を反対される。

このように、男性育休取得対象者への説明が義務がされたとしても、きちんとした説明責任が履行されなければ意味はありません。ただ機械的にメールで就業規則が育休取得対象者に送られてき終わりになってしまいます。そもそも義務を遵守しない会社も存在するかもしれません。

そのためにも、実効性のある義務化にするためには義務を遵守させる仕組みが必要です。例えば、説明義務を履行する上でのガイドラインの作成、ガイドラインの遵守をモニタリングする仕組み、さらには、モニタリング結果を公表する仕組み等、企業に義務を遵守させるための実効性の高い仕組みが必要です。

さらに言えば、ひいてはこうした義務化を遵守する仕組みを通じて企業、そして、そこで働く人達の男性育休に関する考え方が変わる必要があります。こうした考え方の変化が生じた時に、はじめて男性育休が取得しやすい社会になるのではないでしょうか。社会を変えることは、一長一短では達成しえません。一過性ではない、長期的に根気強く活動を推進する人や組織が必要だと感じています。

最後に〜「熱い想いと冷静な頭を!」〜

このように、本稿では男性育休を1年間取得したシカゴリラの視点から、男育休取得率が30%の社会に備えて検討すべきことを3つの視点から7項目説明しました。

具体的には、

  • 検討すべきこと①「パタハラ対策の実効性の担保」
  • 検討すべきこと②「金銭面のサポートの拡充」
  • 検討すべきこと③「精神面のサポートの拡充」
  • 検討すべきこと④「逆パタハラを引き起こさないか」
  • 検討すべきこと⑤「納得間のある負担増の必要性」
  • 検討すべきこと⑥「少子化対策への効果」
  • 検討すべきこと⑦「男性育休義務化の実効性の担保」

こうした項目は、育休取得率が低迷する中では見えてこない課題ですが、今後育休取得率が30%に向けて増えていく中で顕在化していくことが想定されます。

特に、現在政府は男性の産休制度をはじめとして、様々な政策を通じて男性育休取得率を強力に推進しようとしています。男性育休の取得率推進に向けて大きく舵を切る時期だからこそ将来を見据えた制度設計が求められると感じています。強い気持ちで何かを変えようとする時こそ、冷静に生じうる課題について分析・対応することが必要なのではないでしょうか。

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