【令和2年度】育休ギャップモニタリング結果〜解消率は4.5%(対前年度比1.6pt)〜

データで見る男性育休

令和2年度の男性育休取得率が2021年7月30日に厚生労働省により12.65%と発表されました。前年度の7.48%から1.69倍に大幅に増加しました。

しかし、育休取得率の増加自体は大変嬉しいことですが、育休希望者が希望通りに育休を取得できているかといえば決してそんなことはありません。

本記事では、男性育休の推進に向けた草の根活動等を実施する市民団体である「パパ育コミュ」が総力を上げて、育休パパの実体験を踏まえて「12.65%」の真実に迫っていきます。

本記事を読むと、「男性育休取得率が増加した要因」、「育休希望者がぜんぜん育休を取得できていない実態(育休ギャップ)」、「育休ギャップの解消に向けた行動」、「育休推進の先に目指すべきこと」といった、男性育休を取り巻くリアルな実態が分かります。

是非、男性育休に興味・関心がある方はお付き合いいただければ幸いです。

  1. 育児休業取得率と取得期間
  2. 育休取得率が増加した“3つの要因”
    1. 【要因①】育休取得率の加速的増加〜シグモイド・カーブ〜
    2. 【要因②】「男性育休」を取り巻く潮流の変化〜法改正〜
    3. 【要因③】コロナ禍で変わった働き方のスタイル
  3. 育休ギャップ
    1. 【ポイント①】「育休ギャップ」の存在〜「取得率」と「期間」〜
    2. 【ポイント②】「育休ギャップ解消率」で2つのギャップを見える化しよう
    3. 【モニタリング結果】育休ギャップの解消率@令和2年度
  4. 育休ギャップの解消に向けた3つの方策
    1. 【方策①】育休を取得しやすい職場の雰囲気の醸成
      1. 【ポイント①】育休が取得しやすい職場の雰囲気の醸成が最重要
      2. 【ポイント②】育休を取得しづらい雰囲気を生む3つの要因
      3. 【ポイント③】周囲の育休取得者の存在が雰囲気を改善
    2. 【方策②】男性育休の15のメリット啓蒙活動
      1. 【ポイント①】男性育休の15のメリット
      2. 【ポイント②】企業が男性育休のメリットを認識すること
      3. 【ポイント③】男性育休のメリットの周知に向けた“4つの取組”
    3. 【方策③】企業主導型の育休推進
      1. 【ポイント①】個別周知義務の実効性の担保
      2. 【ポイント②】大企業における育休推進の加速
      3. 【ポイント③】中小企業における育休推進への障壁撤廃
  5. 【コラム】育休取得率の精緻化〜統計の限界と解決策〜
  6. 【大胆予想】令和3年度の男性育休取得率18%?
  7. 育休ギャップの解消に向けた3つの課題
    1. 【課題①】パタニティ・トラックへの懸念〜パタハラの回避〜
    2. 【課題②】育休を支える社会への納得感のある負担
      1. (1)職場の同僚にかける負担
      2. (2)社会保険料としての負担増
    3. 【課題③】男性育休のその先へ〜みんなで子育てする社会〜

育児休業取得率と取得期間

厚生労働省の発表によれば、男性の育児休業取得率は12.65%(対前年度比+5.17pt)となりました。

加えて、育休取得期間についても、「5日未満」の育児休業期間の割合が28.3%と減少傾向にあり、裏を返せば育児休業期間が長期化し、産後において家族のサポートにパパが多くの時間を費やすことができていることが分かります

こうした、育児休業取得率の増加や育児休業期間の長期化は「男性の家庭進出」が進んでいる心強いメッセージを示してくれています。

育休取得率が増加した“3つの要因”

では、こうした育休取得率が1.69倍に大幅増加した要因にはどのようなことが考えられるでしょうか。そこで、以下では“3つの要因”に絞って解説していきます。

【要因①】育休取得率の加速的増加〜シグモイド・カーブ〜

男性育休取得率の増加の背景には「シグモイド・カーブ」という「人口増加」や「経済の発展過程」にみられる現象が存在しています(理系の方は、化学物質の毒性評価の実験で使ったことがあるかも)。

シグモイド・カーブの特徴として、「固有の特性を持つ個体が一定数に達したことで、個体数の増加が加速する」ということがあります。

まさに、現在「男性の育休取得者」という特性を持ったパパが一定数に達したことで、「男性の育休取得者」の増加が加速しています。

実は、こうした現象は、実は女性の育休取得率において平成初期に生じていました

四半世紀遅れた令和初期において、同様の現象が男性の育休取得率で生じています。

男性育休取得率は厚生労働省が統計調査を開始した当初から地を這うようなカーブを描いていましたが、平成29年度付近から少しずつカーブが立ち上がってきていました。

こうしたカーブの立ち上がりに伴い、男性育休取得率は今後加速的に増加することが予想されます。

このように、男性育休取得率の増加の要因の一つ目はシグモイド・カーブの特性に基づく「育休取得率の加速的増加」にあります。

※ちなみに、シグモイド・カーブを仮定すると将来の育休取得率を予想することができますので、ざっくりとした将来の予想値を本稿の末尾に記載しています。

【要因②】「男性育休」を取り巻く潮流の変化〜法改正〜

男性育休取得率が増加した要因の二つ目は「潮流の変化」です。

2020年初頭において小泉進次郎環境大臣(当時)が育休(正確には育児休業ではなく、育児目的休暇)を取得したことは連日マスコミで報道され、「男性が育休を取得すること」の是非を踏まえて終日テレビを賑わせました。

加えて、自民党の育休のあり方検討PTにおける提言をもとに、国会でも育休について論議がなされ、2021年6月に育児・介護休業法を含めた育児休業関連の法改正がなされました。

こうした、社会的な動きは、法改正という社会制度の見直しに加えて、マスコミを通じた情報発信等の社会的な意識の変化をもたらしました。

こんな育休を取り巻く社会的な潮流の変化を受けて、

パパ、うちは育休取らないの?

ママから、そんな素朴な投げかけを受けたパパも多いのではないでしょうか。

子供が生まれたら育休を取得したいな!

また、自発的に育休を取得しようと思ったパパさんも多くいらっしゃるのではないでしょうか。

このように、育休取得率が増加した要因の2つ目は、法改正を含めた「社会的な潮流の変化」になります

【要因③】コロナ禍で変わった働き方のスタイル

育休取得率の増加要因の最後の3つ目は「コロナ禍で変わった働き方のスタイル」、より具体的に言えばテレワークの導入です。

みなさんの会社でもコロナ禍に伴う通勤の自粛と在宅ワークの推進が行われたのではないでしょうか。

実際、パーソル総合研究所の調査からも、2020年3月から4月のわずか1ヶ月間でテレワークの実施率が倍増していることがわかってきています。

テレワークの導入は「家族と仕事の境界」を曖昧にし、従前のオフィスに隔離された働き方では難しかった、働きながら家族と関わることが可能になりました。

お昼ご飯を一緒に食べたり、子供の保育園のお迎えに行くので30分だけパソコンをオフにしたり、といった家族と密接に関わりながら働くことができるようになりました。

こうした「家族と仕事の境界」が曖昧になると、ライフ・ワーク・バランスにおける「ライフ」の比重が大きくなってきます

そして、ライフの比重が大きくなった結果として、「育休」という選択肢がより現実味を持つようになります

このように、育休取得率が増加した要因の最後の3つ目は「コロナ禍で変わった働き方のスタイル」でした。

育休ギャップ

【ポイント①】「育休ギャップ」の存在〜「取得率」と「期間」〜

今まで見てきたような3つの要因を背景に、男性育休取得率は近年増加傾向にありますが、育休を希望するパパ(育休希望者)は希望通りに育休を取得できているのでしょうか。

実は、まったくできていません。

パパ育コミュが実施した「男性育休アンケート」では、パパのうち育休取得を希望する割合は80.7%で、そのうち約7割が1ヶ月以上の育休期間を希望していました「育休の取得希望者が育休を取得できていない」(ギャップ①))。

一方で、昨年の令和元年では育休取得率は7.48%、そのうち1ヶ月以上の取得期間の占める割合は2割にも及びません「取得できていたとしても、希望する期間取得できていない」(ギャップ②)」)。

このように、男性育休に関して、“希望“と“実際“の間に「育休取得率」と「育休期間」の2つのギャップが存在していることが分かります。

【ポイント②】「育休ギャップ解消率」で2つのギャップを見える化しよう

こうした2つのギャップ一体として把握するため、パパ育コミュでは「育休ギャップ解消率」を算出してモニタリングしています。

「育休ギャップ解消率」は上図のように、
分子:育休取得者の「育休取得率×1ヶ月以上の育休期間の取得割合」
分母:パパの「育休希望率×1ヶ月以上の育休期間を希望する割合」
をもとに算出した指標です。

感覚的には上図で示した面積の比率(面積比)を取って算出しています。

こうした「育休ギャップ解消率」をモニタリングすることで、パパが「育休を取得できているか」だけではなく「十分な期間育休を取得できているか」という二つのギャップを一つの指標で把握することができます。

【モニタリング結果】育休ギャップの解消率@令和2年度

実際に「育休ギャップ解消率」を令和元年と令和2年度において算出するとどのような結果になるでしょうか。

令和元年度では「育休ギャップ解消率」は2.9%、令和2年度では4.5%(対前年度比+1.6pt)となりました。

つまり、ぜんぜん育休希望者が希望通りに育休を取得できていない実態が明らかになりました

令和2年度において、育休取得率が12.65%(対前年度比+5.17pt)に増加したことから解消率も増加はしましたが、依然として解消率は低水準となっています。

こうした男性育休を取り巻く厳しい現状を踏まえて、パパ育コミュとしても、パパが育児休業を希望通りに取得できる社会の実現に向けた草の根運動を多くの方々のお力を借りながら行っていく所存です。

育休ギャップの解消に向けた3つの方策

「育休ギャップ解消率」は令和2年度において4.5%という厳しい現状を踏まえて、今後「育休ギャップの解消」に向けて具体的に何をしていけばよいのか、3つの重要な点に絞って以下でご紹介していきます。

【方策①】育休を取得しやすい職場の雰囲気の醸成

育休ギャップの解消に向けた方策の一つ目は「育休を取得しやすい職場の雰囲気の醸成」です。

以下では、「アンケート調査から分かった、職場の雰囲気の改善が最重要であること」、「育休を取得しづらい雰囲気の正体」、「周囲の育休取得者の存在が雰囲気を改善」の3つに絞って解説していきます。

【ポイント①】育休が取得しやすい職場の雰囲気の醸成が最重要

上表はパパ育コミュが実施した「男性育休アンケート」において、パパ(育休未経験者)、パパ(育休取得)、ママの3者に対して「育休が今より普及するためには何が必要だと考えますか?」と質問した結果です。

3者の全てにおいて「男性育休を取りやすい職場の雰囲気の醸成」という回答が最も多く、パパ(育休未経験)80.4%、パパ(育休取得)85.1%、ママ90.8%とその回答割合も非常に高くなっています。

こうしたことからも、男性育休が普及し育休ギャップが解消していく上で、「職場の雰囲気」を変えることが最重要であることが分かります。

【ポイント②】育休を取得しづらい雰囲気を生む3つの要因

育休ギャップの解消において「育休を取得しやすい職場の雰囲気の改善」が重要ということが分かりましたが、逆に「育休を取得しづらい職場の雰囲気」とはなんでしょうか。

以前にパパ育コミュが出版した「男性育休白書2021」において、こうした雰囲気を以下の3点から説明しています。

①職場に迷惑をかけることに対する罪の意識

②育児は女性の役割という前近代的な固定観念

③職場で特別な存在になることへの懸念

例えば、「①職場に迷惑をかけることに対する罪の意識」に関して、みなさん夏休みを取得する時に「ご迷惑をおかけします。」と挨拶していないでしょうか。日本には職場を離れることに対して迷惑をかけるという文化が非常に根強く存在しています。

また、「②育児は女性の役割という前近代的な固定観念」、「③職場で特別な存在になることへの懸念」についても根深い問題です詳しく書き始めると、非常に長くなってしまうので以前に記載した記事を引用しておきますので、ご興味がある方は以下のリンクをクリックしてみてください。

【ポイント③】周囲の育休取得者の存在が雰囲気を改善

「育休を取得しづらい雰囲気」については非常に漠然として掴みづらい概念であるが故に、それを改善することも難しいのですが、ただ一つ非常に効果的な改善策があります

それは、「周囲の育休取得者の存在」です。

男性育休取得者がまだまだ少数派である現状では、育児休業を取得すること、特に1ヶ月以上の長期育休を取得する人は“会社で初“や“職場で初“といったことも少なくありません。

そのため、「初めて=特別な存在=目立つ」といった意識が働き、どうしても育休取得をためらってしまうのが実情だったりします。いわゆる、ファーストペンギンの問題です。

もし、同じ部署の先輩が6ヶ月の長期育休を取得していたら、「私も育休を取得しよう」と思うきっかけになるでしょうし、そうした先輩から「育休を取得してみたら?相談に乗るよ!」と声をかけられたら、きっと心強いははずです。

こうした、職場の育休取得者の存在が「育休を取得しづらい職場の雰囲気」の改善において大きな効力を発揮します。

実際、前述したように育休取得率が加速度的に増加していますが、こうした“加速”の背景には会社や職場で「初めて育休を取得したファーストペンギン」の影響が周囲に波及していることが一因と考えられます。

このように、育休ギャップの解消に向けた【方策】の一つ目は「育休を取得しやすい職場の雰囲気の醸成」でした。

職場の雰囲気というと、どうしても掴みどころがない印象がありますが、そうした雰囲気を3つの点から分析するとともに、周囲の育休取得者の存在が雰囲気の改善に大きな好影響を与えることを説明しました

【方策②】男性育休の15のメリット啓蒙活動

「育休ギャップ」の解消に向けた2つ目の方策は「男性育休の15のメリットの啓蒙活動」です。

具体的には、「男性育休の15のメリット」、「企業による男性育休のメリットの認識」、「男性育休のメリットの啓蒙に向けた4つの取組」の3点に絞って説明していきます。

【ポイント①】男性育休の15のメリット

【ポイント①】は男性育休の15のメリットの周知徹底です。

男性育休には、非常に多くのメリットがあるのですが、こうしたメリットが知られていないのが実情です。

例えば、「産後うつのリスク回避」、「産後クライシスのリスク回避」といった男性育休のメリットの最重要の2点についても知らない人が多いのではないでしょうか。

それ以外にも、上図にあるように「母親の視点」、「夫婦の視点」、「父親の視点」、「赤ちゃんの視点」、「兄弟姉妹の視点」、「祖父母の視点」、「会社の視点」、「社会の視点」から少なくとも15のメリットがあります。

非常に多くのメリットがあり、この記事には書ききれませんので、ご興味のある方は以下のリンクをクリックしてみてください。

男性育休を取得しないということは、こうしたメリットを享受できないばかりか、「産後うつ」や「産後クライシス」といったリスクを発現させることにつながり、最悪の場合は夫婦関係が破綻することにつながります。

このように、「男性育休のメリット」と、その裏側である「取得しないことのリスク」をしっかりとこれからパパになる人、また、社会に対して啓蒙し、浸透させていくことが育休ギャップの解消に向けて重要です。

【ポイント②】企業が男性育休のメリットを認識すること

男性育休のメリットに関する二つ目のポイントは「企業が男性育休のメリットを認識すること」です。

これは、前述の「育休を取得しづらい職場の雰囲気の改善」にもつながることですが、企業が男性育休のメリットをしっかりと認識し、経営者が主導して男性育休を組織的に推進することが大切です。

そのためには、男性育休が企業に与えるメリットを企業(経営者)が認識することが必要です。

先日、パパ育コミュが毎週開催している「パパ育トーク」において「企業にとってのメリット」を論議したところ、上図のように沢山のメリットが挙げられました

こうしたメリットが存在することについて経営者がきちんと認識することが大切です。

経営者は株主や債権者、経営者OB(会長や顧問、創業者等)といった声の大きなステイクホルダーを想定して、四半期の決算をベンチマークに収益アップとコストダウンを金科玉条に経営をしがちです。

しかし、企業は「人」です。優秀な人の採用、また、働きやすい環境の提供なくしては、企業の長期的な成長はありません。

ステイクホルダーとしての従業員の小さな声にも傾聴する心構えが企業(経営者)に求められているのではないでしょうか。

このように、ポイントの2つ目は、企業が男性育休のメリットを認識して、経営者主導で組織的に男性育休を推進することです。

【ポイント③】男性育休のメリットの周知に向けた“4つの取組”

男性育休のメリットに関するポイントの3つ目は「周知に向けた“4つの取組”」です。

これには4つの視点で考えることが重要です。

まず、1点目は「政治やマスコミが男性育休の必要性を訴えかける取組(トップダウン)」です。

これは、後述の育児休業に関する法改正にも通じるところがありますが、2021年は男性育休に関するエポックメイキングな年でした。

男性育休に関して政府が重い腰をあげて法改正を実施し、また、そうした内容が連日マスコミで報道され、「男性育休いいよね!」という社会的な機運が高まりました。

こうした、トップダウンともいうべき社会的な変化が男性育休の啓蒙においては非常に重要です。

2点目は「育休取得者が職場の同僚や友人・知人に対して情報を発信する啓蒙活動(ボトムアップ)」が大切です。

どうしてもトップダウンの活動というのは、一過性なことが多く、火力は強いのですが継続性がありません。

そのため、育休取得者がインフルエンサーとなり、周囲の同僚や友人・知人に対して好影響を与え、そうした火を継続的に燃やし続けることが非常に重要になってきます。

まさに、パパ育コミュが多くの育休経験者のお力添えを得て草の根活動を実施している理由でもあります。

3点目と4点目は、教育に関する内容です。男性育休の火をたやさないことは大切な一方で、火が広がりやすい心を教育を通じて養っていくことが大切です。

そうした教育として「義務教育」や「父親学級」があります。こうした教育制度を通じて男性育休の必要性を小さい頃からしっかりと教育していくことが、長期的な視点における男性育休の普及において重要です。

【方策③】企業主導型の育休推進

育休ギャップの解消に向けた【方策③】は「企業主導型の育休推進」です

以下では、「個別周知義務の実効性の担保」、「大企業における育休推進の加速」、「中小企業における育休推進の障壁の撤廃」の3つのポイントに絞って解説していきます。

【ポイント①】個別周知義務の実効性の担保

「企業主導型の育休推進」のポイントの1つ目は「個別周知義務の実効性の担保」です。

2021年6月の法改正に伴い、2022年4月からパパになる社員に対する企業からの男性育休に関する個別周知が課せられることになります。

こうした企業に対する義務をどのように履行するかは、企業の本気度によって対応が変わってきます。

最も望ましいのは、企業として本腰を入れてコストをかけて「父親学級」のような形で研修を実施することです。ここまでできる企業は、男性育休のメリットを強く認識し、本気で育休推進を組織的に実行している企業となります。

ただ義務を履行するだけであれば、「メール・書面通知」で事務的にパパになる社員に育休制度について簡易的に連絡するだけでも可能です。

こうした対応の差は、まさに前述の企業が育休のメリットをどれだけ認識し、経営主導で組織的に育休推進をできるかという点から生じます。

2022年4月から導入される本制度が実効性のもった個別周知として多くの企業で導入されるかが、将来的な「育休ギャップ」の解消において非常に重要な意味を持つことになります。

【ポイント②】大企業における育休推進の加速

「企業主導型の育休推進」のポイントの2つ目は「大企業における育休推進の加速」です。

大企業、特に一部上場企業は従前から育休取得率を公表する企業があったり、また、「イクメンアワード」や「くるみん認定」に参加するなど育休推進に積極的な傾向があります。

こうした企業の多くは企業イメージの向上によるPR効果や人材採用等を理由に実施しています。

実際、マスコミも「育休を取得しやすい企業ランキング」等を積極的に発表しています。

今後は、法改正に伴い「常時雇用する労働者が1,000人超の事業主」は育休取得率(育児休業と育児目的休暇を含む)を公表することになるため、より多くの企業経営者が育休取得率に対して真摯に向き合うようになるのではないでしょうか。

ただ、育休ギャップの解消という意味で気をつけなければならない点として、育休取得率が上昇したとしても期間が短くては意味がないということです。

実際、前日の「育休を取得しやすい企業ランキング」の上位に位置する企業においても「産後の有給休暇5日間以内」の取得を社員に義務化することで育休取得率100%を達成している企業あったりします。

そのため、育休取得率だけではなく、育休期間も意識した本当に意味のある育休推進に向けて、企業経営者が本気になって育休を組織的に推進することが重要になっていくのではないでしょうか。

【ポイント③】中小企業における育休推進への障壁撤廃

「企業主導型の育休推進」のポイントの3つ目は「中小企業における育休推進への障壁撤廃」です。

中小企業において育休推進をする上で最大の障壁の一つは「中核的な人材の欠員を組織的にカバーできないこと」です。

大企業では人材も質量ともに豊富ですので、欠員が出たとしても組織的なカバーが比較的容易です。

しかしながら、中小企業では社内の人材が少ないため、欠員が出た場合の対応が難しいケースがあります。

例えば、従業員20人の町工場で付加価値の高い特殊な加工をする機械を使える技術者が1人しかおらず、その人が育児休業を取得した場合にどのように対処すればよいでしょうか。

こうした懸念を背景に、日本商工会議所が実施したアンケート調査によれば約7割の中小企業が「育児休業義務化(個別周知義務化)」に反対するという結果が出ています

しかし、こうした仕事の属人化というのは育休に限らず企業経営のリスク管理の観点からも由々しき問題です。

育児休業はもしかしたら、仕事の属人化を解消するよい契機となるかもしれません。

実際、前述の町工場の例に挙げてみても、育児休業を契機にいつくか対応策が考えられます。

例えば、「技術者を雇用・育成することによる属人的業務の組織的バックアップ体制の整備」、「補助金を利用した高度人材の雇用」といったことが考えられます(補助金について知りたい方はこちらのリンク先の「企業のメリット」に関連する記事があります。)

また、どうしても雇用・育成が難しいということであれば、法改正に伴い2022年4月から可能となる「半育休制度(働きな育児休業を取得)」を利用するということも考えられます。

このように、中小企業において育児休業を推進していく上で最大の障壁となる「人材の組織的なカバーができない問題」に関して、人材の雇用・育成、そして半育休の利活用という3つの対策を踏まえて説明しました。

【コラム】育休取得率の精緻化〜統計の限界と解決策〜

育児休業取得率は毎年7月末頃に雇用均等基本調査を通じて発表されます。

本調査は「育児休業取得率」の調査だけではなくさまざまな項目を調査しているため、必ずしも「育児休業取得率」の算出に最適な統計ではありません。

例えば、本調査はサンプリング調査を実施しており、全国558万事業所のうち3,591事業所のアンケート結果に基づいたデータとなっています。3,591事業所というのは、全事業所の0.06%に相当し、例えば100万人のパパになった人の中から600人を選んで育休取得率を算出しているようなイメージです。

そのため、決して全体を適切に表しているとは言えない状況です。

まして、本調査では業種別の育休取得率を算出していますが、600人のパパのデータをさらに業種別に分けて数十人のパパの情報から業種別の取得率を算出するというのは本当に無理があります(データも毎年ジェットコースターのように乱高下しています。)

そのため、より精緻な育休取得率の算出方法を政府としても検討する必要があるように感じています

そこで、有力な候補となるのは雇用保険事業年報です

この統計調査は雇用保険加入者や受給者の全数をベースにした調査結果ですので、非常に高い網羅性をほこっています

雇用均等基本調査では、100万人のパパのうち600人のサンプルから育休取得率を算出していましたが、雇用保険事業年報では100万人のパパ全員の情報から育休取得率を算出することができます。

もちろん、「業種別」や「期間別」の情報も個別に集計する必要はありますが、労力をかければ算出可能です。

統計の継続性という観点からは従前から使用していた雇用均等基本調査を利用するのがよいかと思いますが、業種別や期間別といったより細かいデータを分析するという観点からは雇用保険事業年報の方が適切な統計データとなります

では、育児休業取得率を雇用保険事業年報から算出するとどうなるでしょうか。

パパ育コミュではいくつかのざっくりとした仮定と前提をおいた上で算出してみると、育児休業取得率は令和2年度で8.6%となりました。雇用均等基本調査では12.56%でしたので、雇用保険事業年報では4%程度低い数値となっています。

一方で、平成29年度から令和2年度の育児休業取得率を両者の統計データで比較(上図のカーブ)すると、カーブの形状は概ね一致している一方で、雇用保険事業年報において数値が30%程度低い水準となっています。

30%分の差異は算出前提の置き方や統計データの特性(層化抽出であり大企業の従業員数が大きいことやサンプルに対する回答者の特性(おそらく、従業員規模が小さな企業の回答率が低い)!?)に起因するものだと推察されますが、いずれにしても雇用保険事業年報ベースのデータを使用して育休取得率を算出することは技術的に可能です。

今後男性育休を強力に推進していく上ではデータに基づいた政策のPDCAサイクルを回すことが重要になってきますので、きちんとした統計データに基づく、より精緻な情報を活用することが必要です。

政府としても、雇用均等基本調査というざっくりとしたデータではなく、雇用保険事業年報という精緻なデータに基づく育児休業取得率を算出してみてはどうでしょうか(と提案してみます)

【大胆予想】令和3年度の男性育休取得率18%?

男性育休取得率は令和元年度7.48%、令和2年度12.65%と増加傾向にありますが、令和3年度はどの程度の水準になるでしょうか?

パパ育コミュの総力を挙げて大胆に予想してみたいと思います。

実は、前述の通り育休取得率はシグモイド・カーブという曲線を描いて増加すること予想されます。そのため、いくつかの前提をおけば将来の育休取得率の推移を予想することができます。

過去の昨今の男性育休に関する社会的な機運の高まりや過去の女性の育休取得率のカーブの形状をもとに将来の育休取得率をざっくりと予想したのが上表です。

結論としては、令和3年度の男性育休取得率は17〜18%(対前年度比+5~6pt)になることが予想されます。さらに、政府が目標として掲げている2025年育休取得率30%についても大胆に予想してみると、達せ可能性は50%程度であると見込まれます

上表において「青いカーブ」は理想的な状況で、男性育休に関する社会的な機運の高まりが継続し、かつ、企業主導型の育休推進が実効性も持って行われる場合を想定したケースです。この場合は、2025年度に政府目標の30%を超えることが想定されます。

一方で「赤いカーブ」現実的な状況で、男性育休に関する社会的な機運は2022年度以降に落ち着きを見せ、企業主導型の育休推進も一部の大企業を中心に限定的に行われるケースです。この場合は、2025年度に政府目標は達せられず、一年遅れの2026年度に達せられる見込みです。

しかし、男性育休についても機運が消沈してしまえば、理想的でもなく現実的でもない悲壮な状況になる可能性もあります。

政府が重い腰を挙げて実施した男性育休に関する法改正やそれに伴う社会的な機運の高まりを以下に持続させるのか、そして、その火をさらに中傷期的に伝播させていくのかということが、今後の男性育休の普及において非常に重要になります

パパ育コミュとしても微力ながら男性育休普及に向けて草の根活動をしていく所存ですので、みなさまの引き続きのお力添えをお願いいたします。

育休ギャップの解消に向けた3つの課題

育休ギャップの解消に向けた方策や将来の男性育休取得率の予想について記述してきましたが、育休ギャップの解消した場合には実際問題として社会に負担がかかることになります。

そうした負担を政府が静観していると、大きな歪みを生むことになり、育休ギャップの解消に向けたモーメンタムがブレーキをかけることになりかねません。

そこで、最後に育休ギャップの解消に向けた課題を3つに絞って解説します。

【課題①】パタニティ・トラックへの懸念〜パタハラの回避〜

パタハラとは「パタニティ・ハラスメント」の略称です。パタニティとは「父性」を表し、ハラスメントは「いやがらせ」という意味ですので、男性の育休取得を含む育児参加に伴う職場での不当な扱いを指し示す言葉です。

例えば、以下のような場合がパタハラに該当します。

  • 男性育休を取得しようと上司や人事部門に相談したが不当に取得を拒絶、もしくは取得期間を短縮された。
  • 男性育休を取得申請をした結果、職場の同僚から嫌がらせを受けた。
  • 男性育休から復帰後に、不当な職場の配置換えや減給、降格処分、昇進の遅延等の不利益を受けた。

こうした育休に伴うハラスメントは法律によって明示的に禁止されています。具体的には、育児・介護休業法10条において、労働者が育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由として当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています。

しかしながら、パタハラは実際問題として起きています

2019年に東証1部上場企業で子育てサポート企業として厚生労働省に認定された「カネカ」という企業においてパタハラが懸念される人事異動がありました。カネカに勤務する男性社員が育児休業明けに不当な転勤を命じられてやむなく退職するという出来事がありました。男性社員の妻がTwitterにおいて男性の不当な処遇について投稿したことで明らかになりました。

ツイッターの投稿は以下のとおりです。

「信じられない。 夫、育休明け2日目で上司に呼ばれ、来月付で関西転勤と。先週社宅から建てたばかりの新居に引越したばかり、上の息子はやっと入った保育園の慣らし保育2週目で、下の子は来月入園決まっていて、同時に私は都内の正社員の仕事に復帰予定。」

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社内的にどのような判断があったのかは分かりませんが、育休明け2日目に転勤が命じられたというのは不当な処遇が疑われる出来事です。加えて、問題を大きくしているのは、カネカが厚生労働省により「子育てサポート企業」として認定され、「くるみんマーク」を取得していたことです。子育てサポート企業と認定された東証1部上場企業ですらパタハラが起こってしまったことは社会に衝撃を与えました。

このように、男性社員が育休を取得することによる不利益、つまりパタハラを被らないような法律が整備され、そして、子育てをサポートする企業を認定する仕組みがあるにもかかわらず、パタハラが実際に起こっています。パタハラという不幸な経験をしないためにも法制度の遵守や会社組織のガバナンスのあり方について検討すべきではないでしょうか。

【課題②】育休を支える社会への納得感のある負担

課題の2つ目は「育休を支える社会への納得感のある負担」です。

育休取得率が増えるということは社会にとって2つの大きな負担を強いることになります。

一つは「職場の同僚にかける負担」であり、もう一つは「社会保険料としての負担」です。

(1)職場の同僚にかける負担

HR総研とNPO法人マタハラNet協働調査によれば、「産休・育休を取得する社員が出ると、その社員の業務は周囲の社員が追うことになる労働環境だ」という質問に対して「とてもそう思う」、「まあそう思う」が合わせて約7割を占めています。

こうした結果から、職場に欠員が出ることは残された同僚に負担がかかることになります。育休取得者が増加するにつれてこうした負担感は増していきます。

こうした負担をどのように軽減するのか、もしくは賞与で調整するのかといった対策を企業側が具体的に検討する必要があるのではないでしょうか。

実際、企業は育休取得者が出た場合に、行政から助成金を受領しているため、代理の人を雇用したり、残された同僚のボーナスを引き上げるなどの対応があってもいいのかもしれません。

(2)社会保険料としての負担増

育児休業の取得者が増加すればその財源として社会保険料を引き上げる必要があります。

例えば、毎年の出生数が約90万人(昨年は86万人)として、このうち政府が掲げる育休取得率目標の30%に相当するパパが1ヶ月間育休を取得したとします。1ヶ月の給付金は約30万円とします。90万人×0.3×1ヶ月×30万円=810億円のの財源を確保する必要があります。

育児休業給付金は雇用保険料(と国庫負担(税金))から拠出されてます。

男性育休が増加した場合の財源を明確化するために、令和2年4月に現在雇用保険の勘定分離が行われました。今後、育児休業給付金の支給額が増加すれば、勘定をバランスさせるために雇用保険料率の見直しが行われることになります(国庫負担分は消費税増税などで対応するのでしょうか)。

これを労働者5,000万人で負担するとなると一人当たり年間1,610円程度の負担増となります。

また、育休先進国のスウェーデンのように育休期間が6ヶ月となった場合は年間9,660円の負担増になります。

こうした雇用保険料の引き上げに伴う社会への金銭的な負担についても納得感のあるものにする必要があります。

※男性育休取得率が引き上がった場合に課題については、以下の記事でより詳細に記述していますので、ご関心があればアクセスしてみてください。

【課題③】男性育休のその先へ〜みんなで子育てする社会〜

男性育休は実は手段であって目的ではないことを忘れてはいけません。

目的はパパが子育てをすることであって、育休を取得すること自体が目的になってしまっては「取るだけ育休」に代表されるような弊害が生じてしまいます。

さらに言えば、パパが子育てをすること自体も大きな目標に向けたスタートに過ぎないかもしれません

大きな目標とは「みんなで子育てする社会の実現」です。

昨今の親元を都会で働くスタイルの普及に伴い、多くの家庭が都会で夫婦単位で子育てをするようになりました。そして、その多くの家庭でママが育児を担うことで、ママ1人に多くの負担がかかるという問題が生じました。

そして、その対応策として家庭単位でママだけではなくパパも育児に参加する契機として「男性育休」の普及の必要性が叫ばれています。

しかし、本来は育児とは家庭単位だけではなく、祖父母や親戚、地域、行政といった多様な主体が少しずつ負担しながら担うものであり、そうすることで効率的かつ効果的な育児が行うことができるのではないでしょうか

男性育休を推進する家庭で、パパとママが二人三脚で育児を担うことはもちろんですが、その先には多様な主体が三人四脚、五人六脚と少しずつバランスを保ちながら育児をする環境を整備することが大切なのではないでしょうか。

きっと、そんな「みんなで子育てする社会」が実現した時に、パパママが働きやすい社会、そして、子供たちの笑顔が溢れる社会が実現するのではないでしょうか。もしかしたら、そんな社会が実現できれば、少子化問題も雲散霧消しているかもしれません。

以上、「【令和2年度】育休ギャップモニタリング結果と【令和3年度】将来予想」でした。長文にもかかわらずお付き合いいただきありがとうございました。

ここまで読み進めた方は、きっと男性育休に強い関心がある方だと思います。一緒にパパ育コミュで「育休推進に向けた草の根活動」や「パパ仲間とコミュニケーション」をしませんか?

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また、男性育休に関してもっと詳しく知りたい方は、以前出版した書籍をご一読いただくと参考になるかもしれません。500名近い方のアンケート結果や生声をもとに執筆しました。

これから育休取得を検討される方は、こちらの書籍もおすすめです。男性育休取得者の方々の体験に基づいて「育休取得で気をつけるべき50のこと」をまとめました。

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