【令和2年度】育休パパの構造分析結果〜“4つの障壁”を乗り越える“2つの取組み“〜

データで見る男性育休

令和2年度の男性育休取得率が2021年7月30日に厚生労働省により12.65%と発表されました。前年度の7.48%から1.69倍に大幅に増加しました。

しかし、育休取得率の増加自体は大変嬉しいことですが、育休希望者が希望通りに育休を取得できているかといえば決してそんなことはありません。

育休取得を断念しているパパは、令和2年度にパパになった人の68.1%にのぼります。

本記事では、男性育休の推進に向けた草の根活動等を実施する市民団体である「パパ育コミュ」が総力を上げて、育休パパの実体験を踏まえて「育休を断念した68.1%の実態」を育休取得の4つのステップに分けで詳細に分析するとともに、最大の障壁となる「会社への相談」等を乗り越えるために鍵となる2つの取組みを説明していきます。

加えて、そうした2つの取組みが効果的に実行された場合の将来の育休取得率を、政府目標である2025年度30%と見据えて3つのパターン(「理想的水準」、「期待的水準」、「悲観的水準」)に分けてシミュレーションしていきます。

本記事を読むと、男性が育休を取得取り巻くリアルな実態が分かります。

育休取得を断念したパパは“68.1%”

厚生労働省の発表によれば令和2年度の男性育休取得率は12.65%となっています。一方で、パパ育コミュが実施した「男性育休アンケート」によれば、育休取得を希望するパパの割合は80.7%です。

つまり、希望者80.7%と取得者12.65%の差分である68.1%に相当するパパが育休取得を断念していることになります

政府は2025年までに育休取得率を30%まで引き上げることを目標として掲げており、こうした目標を達成し、パパが育休を取得しながら、育児のファーストステップに積極的に携わっていくためにも、68.1%の育休取得を断念した人達(以下、「育休断念者」)をもっと深く知ることが重要になってきます。

しかし、現状では育休断念者の構造的な分析は行われておらず、全くのブラックボックスとなっています

育休パパの構造分析

男性育休の普及に向けて、育休取得を希望した人が「何故断念してしまったのか」という疑問に答えることが大変重要です。そして、そうした「何故」に寄り添う形でサポートを提供することが効果的だからです。

そこで、パパ育コミュでは「男性育休アンケート」を通じて、パパが育休取得するまでのステップを四段階に分けて構造的に分析しました

4つのステップとは上図にあるように以下の4ステップです。

「①育休を希望するステップ」
「②育休を準備するステップ」
「③育休を相談するステップ」
「④育休を取得するステップ」

こうした「ステップ毎の特徴」と「次のステップに進むために必要なサポート」について以下ではステップバイステップで説明していきます。

育休を希望するステップ

「男性育休アンケート」からは、パパ全体の約8割が育休取得を希望していることが分かりました。この結果自体は今後の男性育休を育休が普及していく可能性を感じさせるポジティブな結果となっています。

一方で、19.3%のパパは育休取得を希望していないことが分かります

育休取得を希望しない理由としては「育児は女性の役割という前近代的な性別的役割意識」、「育休を取得することで職場に迷惑をかけるという罪の意識」、「男性は育休取得できないという思い込み」等が挙げられます。

こうした育休を希望しない人が育休を希望するようになるためにも、「パパに育児の当事者意識を持たせること」、「育休の必要性を啓蒙すること」、「会社側から男性も育休を取得を促すこと」等が必要になってきます。

こうした取り組みを通じて、現状の8割が育休取得を希望する状況から、将来の育休希望者が100%に漸近していくことになります

育休を準備するステップ

育休希望者のどれくらいの割合が具体的な育休取得に向けた行動をしているのでしょうか。逆に言えば、育休を希望するも、具体的に制度を調べたり、取得期間を検討するといった行動に踏み出せていたない人(以下、「漠然と希望する者」)はどの程度いるのでしょうか。

実は、育休希望者の4分の1は「漠然と希望する者」に該当します

「漠然と希望する者」の特徴としては「育休を休みのような感覚で希望する人」、「仕事が忙しくて育休制度を調べるに至らない人」、「妻に任せても育児は十分にこなせると思い込んでいる人」等が該当します。

こうした「漠然と希望する者」に次の一歩を踏み出してもらうためには、「育休の必要性の啓蒙」、「会社が育休制度について説明すること」、「周囲の育休取得者の体験談に触れる機会の増加」等が効果的だと考えられます。

せっかく育休取得を希望した人が、何も行動をせずに終わってしまうことはもったいないことですので、次の一歩を踏み出す上記のようなサポートをすることが、今後の男性育休の推進において重要になってきます。

育休を相談するステップ

育休に向けて具体的な準備をする人のうち、どれくらいの割合が「上司」や「パートナー」等の周囲に対して相談するのでしょうか。

実は、育休準備者のうち、周囲へ相談した者の割合は40.7%しかいません

多くの育休希望者が、「育児休業制度」を調べたり、育休期間の検討はするのですが、周囲に相談するというステップで躓いていることが分かります。

「周囲に相談せずに育休を断念した者」の特徴としては、「金銭面の目処が立たずに断念した人」、「上司に相談して揉めるのを恐れる人」、「周囲に育休取得者がおらず、一歩を踏み出せない人」等が該当します。

こうした「周囲に相談せずに育休を断念した者」に次の一歩を踏み出してもらうためにも、「育児休業中の収入の確保」、「会社側からの働きかけ」、「周囲の育休取得者の増加に伴う、職場の雰囲気の改善」等といった取り組みが重要になってきます。

育休を希望し、そして育休取得に向けて行動を始めた人が、周囲に気軽に相談できる環境整備や雰囲気の醸成が必要となってきます。

育休を取得するステップ

最後のステップは「育休を取得するステップ」です。厚生労働省の発表によれば令和2年度の育休取得率は12.65%となっています。

「育休について周囲に相談した者」のうち、実際に育休取得できている者は48.8%となっています。逆に言えば、半数は育休を取得できずにいることが分かります。

「育休について周囲に相談するも断念した者」の特徴としては、「パートナーに相談したが上司に言い出せなかった人」、「上司に相談するも業務繁忙等で取得を断念した人」、「会社に申請するも、前例がない等の理由で断念した人」が該当します。

こうした、「育休について周囲に相談するも断念した者」に育休を取得できるようにするためにも「パパが育休取得しないリスクを認識すること」、「会社が業務の組織化を進め育休を取得しやすい職場を作ること(属人的業務の組織化)」、「会社側から育休取得について説明・意向確認すること」といった対策が有効です。

このような取り組みを通じて、より多くの方が「育児休業を取得しやすい社会」、つまり、苦労することなく、必要な期間にわたって取得できる社会が実現すると考えられます。

【まとめ】育休パパの構造分析

育休パパの構造分析として、育休取得プロセスを4つのステップに分けて、「各ステップの特徴」や「ステップを乗り越えるためのサポート」について分析・解説してきました。

こうした4つのステップを「コンバジョン・レート(CR)」という各ステップに進む割合を概観してみると、どのステップが育休取得において高い障壁となっているかが分かります。

「ステップ①「取得対象者→育休希望者」:80.7%」
「ステップ②「育休希望者→育休準備者」:78.7%」
「ステップ③「育休準備者→育休相談者」:40.7%」
「ステップ④「育休相談者→育休取得者」:48.8%」

つまり、育休取得における最も大きな障壁は「ステップ③「育休準備者→育休相談者」:40.7%」であり、次に大きな障壁は「ステップ④「育休相談者→育休取得者」:48.8%」となることが分かります

こうした段階において育休取得を希望するパパのニーズに沿ったサポートを提供することで育休取得を効果的に推進することができることになります

育休取得に向けた障壁を突破する2つの方法

育休取得取得に向けた障壁として「ステップ③「育休準備者→育休相談者」」と「ステップ④「育休相談者→育休取得者」が大きな壁として存在することが分かりましたが、ではこうした障壁を乗り越えるためのサポートを「政府によるトップダウン」と「一般市民によるボトムアップ」の2つに大別してご説明します

行政によるトップダウン

法改正の内容とスケジュール

2021年6月に「育児・介護休業法」が改正されました。改正内容の詳細については厚生労働省のHPに記載がありますが、概要は上図のとおりです。

こうした改正内容は公布から1年6ヶ月以内の政令で定める時期に施行されることになります。

法改正のスケジュールについては、上図のとおりです。

「企業による個別周知義務化等」については2022年4月1日、「男性版産休制度」及び「半育休」については2022年10月1日、大企業の育休取得率公表については2023年4月1日における施行が予定されています。

まさに、2022年度は育児休業に関する大きな変革を迎える年になることが期待されます。

法改正が育休取得のステップに与える影響

こうした、育児休業を取り巻く制度改正は、育休取得の4ステップにどのような影響を与えるのでしょうか。

企業による個別周知義務化

まず、「企業による個別周知義務化等」については、企業からパパになる従業員に対して育休制度について個別に周知し、意向確認をすることになります。つまり、企業から育休取得についての説明と取得するかどうかを確認してもらうことになります。

男性が育休を取得する上での最大の障壁である「ステップ③「育休準備者→育休相談者」」において、全ての従業員が会社から個別周知と意向確認を受けることになるため、このステップは理論上は100%達せられることになります。

ただし、意向確認や個別周知においても企業がどれだけ本気になるかによって、その効果は大きく変わります。

こうした企業に対する義務をどのように履行するかは、企業の本気度によって対応が変わってくるからです。

最も望ましいのは、企業として本腰を入れてコストをかけて「父親学級」のような形で研修を実施することです。ここまでできる企業は、男性育休のメリットを強く認識し、本気で育休推進を組織的に実行している企業となります。

ただ義務を履行するだけであれば、「メール・書面通知」で事務的にパパになる社員に育休制度について簡易的に連絡するだけでも可能です。

こうした対応の差は、まさに前述の企業が育休のメリットをどれだけ認識し、経営主導で組織的に育休推進をできるかという点から生じます。

2022年4月から導入される本制度が実効性のもった個別周知として多くの企業で導入されるかが、将来的な男性育休の普及において非常に重要な意味を持つことになります。

半育休制度

「半育休制度」、つまり、「働きながら育休を取得できる制度」の導入についても、実は育休取得の障壁を乗り越える上で大きな鍵になります。

育休中に継続して一定時間就労することにより、職場への負担が減るとともに、育休中の金銭面の収支も改善します。加えて、キャリアロスのリスクも低減します。

こうしたメリットのある半育休制度ですが、2022年10月の施行におけるスムースな導入に関して課題が2つあります。

一つは、労使協定で半育休制度について合意を得るということです。労働組合との合意がなければ半育休制度について導入することはできない仕組みになっているため、両者が論議を進め合意に至るまでは制度として導入することはできません。

加えて、半育休制度は人事部門における労務・給与管理を煩雑にします。育児休業給付金をハローワークに請求するとともに、人事システム上で半育休の労務管理をしなければいけません。そうした労務管理をするための人事システム改変の予算取りや改変作業・運営チェック等が必要となります。

このように労使協定とシステム改変を2022年10月までに行うことが企業というのは、多くないのではないでしょうか。

そのため、半育休制度は制度としては非常に魅力的な一方で、実際に導入する企業が増え始めるまでしばらく時間を要するのではないかと予想されます。

※半育休制度については以下の記事で詳細に記載しています。

男性版産休制度

「男性版産休制度」については、分割取得の回数が増えることや申請時期が従前の2週間前から1週間前まで可能になるといった変化はありますが、育休取得をするかどうかという判断というよりも、育休取得をする場合の利便性を高めると言った効果が高いものと考えられます。

そのため、育休の普及という意味ではあまり効果がないかもしれません。

では何故このような制度を導入したのかといえば、元々は産休制度を導入して「給付率の引き上げ」を検討していたという背景があります。詳細については以下のコラムをご参照ください。

【コラム】幻の、育児休業給付率67%→80%!?

2020年3月に自民党のプロジェクトチームが男性の産休制度を提案し、それを受け、厚生労働省の労働政策審議会の分科会で具体的な制度内容について検討が進められました。

実は、検討当初においては男性版産休制度の導入に伴い、産休期間中(最大1ヶ月)は育児休業給付金を67%から80%に引き上げることが検討されていました。社会保険料免除と合わせると、実質的に手取り給与の100%が受け取れる仕組みを創設することを目指していました。

男性育休アンケートにおいても、育休取得を断念したパパの声の中には、「学生ローンや住宅ローンを抱えて、ギリギリの生活費でやりくりしているため、育児休業給付金では生活ができないと考え取得を断念した」という声もありました。

しかしながら、検討の途中段階で給付率の引き上げは頓挫し、12月14日に厚生労働省の労働政策審議会の分科会「給付率の引き上げの見送り」が提案されました

こうした提案の背景には、財源確保が難しいこと、また、女性の産休制度における給付率との平仄を合わせる必要があったものと推察されます。

大企業の育休取得率の公表

企業、特に規模の大きな企業の経営者は外部公表データを意外と気にします。

「同業他社と横並びで比較した場合に、我が社が負けているとはなんたることか!?」と、人事部門の担当者が公表値を説明しに行った際に指摘されることになるかもしれません。

経営者が育休取得を判断する基準は、もちろん「経営成績への影響」が端的な基準となりますが、そうした数値基準と合わせて「育休取得率」が目に見える基準として開示された場合、意外と経営者は気にするかもしれません

もし、経営者が気にしなくても、新卒採用や従業員のやる気といった部分を通じて間接的に、経営者の行動を喚起するかもしれません。

いずれにしても、2024年4月1日施行ですので、2024年度の育休取得率にどのような影響があるのか期待です。

草の根運動によるボトムアップ

政府にトップダウンによる取り組みに加えて、一般市民のボトムアップによる草の根活動も重要性を増してきています。

育休取得における障壁をとして、どうしても育休取得者が周囲にいないことから「育休を取得し辛い雰囲気」感じることがあります。こうした障壁を取り除くためにも、育休を経験したパパが次の世代のパパの背中を後押しすることが効果的です。

そこで、パパ育コミュにおいても、そうした「育休取得の輪」を次の世代に繋げるために、「パパ育スクール」という学びの場を提供しています

「パパ育スクール」の概要は以下のとおりです。

・現役パパがパパになる前に知っておきたかったことを、プレパパ(ママ)と対話しながら「気づきを通じて学ぶ」をコンセプトに、パパが育児をする上での必修内容をギュッと詰め込んでプレパパ(ママ)向けに学びの場を提供します。

・「パパが育児に携わる15のメリットと携わらないリスク」、「パパが育児においてできること(妊娠・出産・産後期)」、「パパのキャリア」という3つの大きなテーマと、「男性育休にまつわるお金事情とおすすめの期間」について全10回のスクーリングを行います(専門的な内容については講師をお招きします)。

・加えて、スクーリングの内容を含めた疑問や質問への対応、育休取得希望者に対するサポート等をきめ細やかに行うため、メンター制度を導入し、参加者のプレパパ(ママ)とメンター(育休経験者)が日常的にコミュニケーションを図ることができます。

ご興味のある方は、パパ育コミュまでご連絡ください(papaikuアットマークgmail.com)。

【大胆予想】将来の男性育休取得率

以前のブログ記事で「育休ギャップ解消率(令和2年度4.5%)」について解説した際に、いくつかの前提を置きながら、令和5年度の育休取得率の政府目標である30%に到達するかを予想しました。結論としては、令和5年度の育休取得率は26〜35%と想定され、政府目標達成確率は50%と見込まれます

こうした予想値を今回の「育休パパの構造分析」の結果を踏まえて、どのような場合に令和5年度の育休取得率が26〜35%になるのかを分析していきます。

【思想的水準】令和5年度育休取得率35%

令和5年度の育休取得率が35%になる場合は「理想的」な状況だと考えられます。

実際には、政策の効果は各ステップによって異なるのですが、簡単のため、各ステップのコンバージョンレートをどの程度引き上げると育休取得率が35%に到達するかを分析すると、「1.7倍」という結果になります

1.7倍という水準は非常に高い理想的な水準ではありますが、企業が個別周知・意向確認についてしっかりと取り組み、政府がそれをしっかりとバックアップ・モニタリングし、さらに、草の根運動が継続的に効果を発揮すれば達成不可能な水準ではありません。

【期待的水準】令和5年度育休取得率26%

令和5年度に育休取得率が25%になる場合は「期待的な水準」だと考えられます。

上記と同様に、コンバージョンレートをどの程度引き上げた場合に25%に達するかを分析すると、「1.4倍」となります。

1.4倍というのは比較的達成可能な水準であり、政府の後押しを受け、大企業を中心に、意欲的な中小企業も含めて、男性育休に対する個別周知・意向確認を行い、また、草の根活動をしっかりと行えば、達成が期待できる水準だと考えられます。

【悲観的水準】令和5年度育休取得率20%

令和5年度に26%に満たない水準とはどの程度の水準でしょうか。

例えば、コンバージョンレートを1.2倍として場合は、令和5年度の育休取得率は20%となります。

育休取得率は上昇期に入っており、しばらくは増加していくものと想定されますが、法改正に伴う企業の個別周知や意向確認が実効性を伴わない場合は、おそらく悲観的水準ともいうべき20%水準になってしまうことが推察されます。

【まとめ】育休パパの構造分析

育休パパの構造分析として、男性育休を取得する過程で実に68.1%ものパパが育休を断念している状況を4つのステップに分けて定量的に分析しました。

こうした分析から、育休取得における最も大きな障壁は「ステップ③「育休準備者→育休相談者」:40.7%」であり、次に大きな障壁は「ステップ④「育休相談者→育休取得者」:48.8%」となることが分かりました

そして、障壁を乗り越えるための鍵として、政府によるトップダウンのアプローチと、一般市民によるボトムアップの両輪が機能的に働くことの重要性を述べ、ボトムアップの一例としてパパ育コミュで実施する「パパ育スクール」の取り組みを紹介しました

こうしたアプローチが効果的に実行されることで理想的には令和5年度において政府目標30%を大きく上回る育休取得率は35%になる可能性がある一方で、期待的には26%、そして、悲観的な水準としては20%であることを説明しました

皆さんは、令和5年度の育休取得率は何%になると思いますか。よかったら、コメントに「○○.〇〇%(小数点2位)」と残してください!最も近かった方に何かプレゼントを贈呈するかも!?

コメント

タイトルとURLをコピーしました