日本にいると日本のことしか見えてこないため、ついつい日本の育児の良くない部分が目についてしまうことがあります。
日本の育児って、「待機児童問題」や「教育の格差問題」だったりダメなところが多いよね。日本も海外を見習って改善していかないと。
ただ、実際に海外の育児に目を向けると、必ずしも海外の育児が完璧ではないことが分かります。
今回の記事では、イギリス、アメリカ、ドイツの3カ国の育児事情を3名のゲストからヒアリングしながら日本の育児について見つめ直してみたいと思います。
「隣の芝生は青い」っていう諺があるけど、海外の育児の実態をきちんと把握した上で、優れた部分を学ぶことが大切だよね。
「はじめてのおつかい(Old Enough)」はありえない!?
日本テレビの人気番組である「はじめてのおつかい」という番組を見たことがある人は多くいると思います。
やっと1人で歩きはじめた2歳の幼児から5〜6歳の子供たちが生まれて初めて1人でお使いに挑戦する番組です。
子供たちが一生懸命に頑張る姿に、我が子と重ね合わせて“うるうる”しながら見ています。
2022年4月に、Netflixにより、この番組がイギリスを含む海外で配信されるようになりました。
すると、育児に対する文化的背景の違いから意外な反応がありました。
英国ガーディアン紙「幼児を公共機関に置き去りにする、日本のテレビ番組」
こうしたコメントの背景には、日英における育児に対する考え方の違いがあります。
日本では、「地域で子供を見守る」という意識が強くありますが、英国では「子供は保護者・大人が守るべき対象」という考えがあります。
そのため、こうした育児に対する考え方の違いが「はじめてのお使い」という番組に対する日英の評価の違いにつながったのでした。
海外のちょっと変わった育児
日本では当たり前の育児であっても、海外では当たり前ではない。また、逆に、海外では当たり前であっても、日本では当たり前ではないことがります。
例えば、モンゴルでは赤ちゃんをぐるぐる巻きにして布で包みます。そして、遊牧民の方達だとゲルという移動式の住居の壁に赤ちゃんをぶら下げたりします。赤ちゃんがモロー反射で手足が動いてびっくりして泣くのを防いだり、モンゴルの草原地帯は地面付近が寒いので壁につるさげることには意味があります。
欧米では子供たちに幼少期から1人部屋を与えます。その背景には、子供たちに自立心を芽生えさせると共に、夫婦のプライベートを重視する文化があります。
ベトナムではおむつを9ヶ月で外します。日本では、2〜3歳頃に保育園で保育士さんに指導してもらったり、幼稚園にいる前に親が一生懸命にトイレトレーニング(トイトレ)をしていることを考えると、9ヶ月という歩き始める前からおむつを外してしまうというのは驚きです。
一方で、日本の文化も海外では異常に見えることも。
例えば、日本ののり弁は海外では異様に見えるそうです。アメリカ在住の日本人の友人に小学校のお弁当にのり弁を持っていったら「See Weed(海藻)!」とからかわれ、それからしばらく「See Weed」というあだ名をつけられたというエピソードを聞いたことがあります。
このように、国がか変われば、その国々に応じた風土や文化的な背景によって、育児のあり方も異なってきます。
日本だと、「育児って、こうしなきゃいけない」というマニュアルのようなものがあって、それに則ってしっかりと育児をしないと思いがちだけど、国によってはマニュアル自体が違うのね。
3人のゲスト紹介(英米独)
英米独の3カ国の育児に詳しいゲストをお招きして、海外の育児事情をお伺いしました。
北川さん:ロンドン在住、大学講師、2児のお子さんのパパ ツイッター
綿島さん:長崎県在住、陶芸家、ドイツ人のパートナーと国際結婚、現在2児のパパ アトリエ
大久保さん:ニューヨーク在住、国際機関勤務、3児のパパ(8歳、6歳、3歳、ネパール、タイ、アメリカで子育て経験あり) 【海外育児①】妊娠出産におけるパパの役割
質問①では「妊娠出産におけるパパの役割」について聞いてみました。 日本の育児休業制度はユニセフの国際調査では取得期間や給付金水準を踏まえると「世界で最も優れた制度の一つ」と評価されていますが、海外の事情と比較してどうなのでしょうか。 また、男性が育休を取得することに対して、日本との意識の違いなどはあるのでしょうか。 ・イギリスの育児休業制度は男性はニ週間しか取得できず、その間の給与の補填も極端に少ない。具体的には、給与の9割もしくは円換算して週2万5千円のいずれか小さい金額しか補填されない。そのため、キタガワさんがパートナーの出産に伴って育休を取得しようとした際に、同僚から「絶対に育児休業制度は使わずに有給休暇を消化した方がいい。」と言われた。 ・キタガワさんは同僚のアドバイスを参考にし、6月の子供の出生に伴い6月〜9月まで育児目的の有給休暇を取得した。キタガワさんは大学講師をされているため、ちょうど5月のテストが終わって9月に新学期が始まるまでの期間は休みが取りやすいことも、長期の育児目的の休暇を取得できた要因であった。 ・欧米はバケーションの文化があるため、長期の休暇を取得しやすいという認識が日本人の中にあるかもしれないが、ヨーロッパ大陸こそそういった文化もあるが、キタガワさんの当時の職場は特段の事由がない限り休暇は最長で2週間とされており、必ずしも長期の休みをとりやすいというわけではない。 ・企業規模や職種によって育児休業の取得率は異なり、雇用主別では大企業や公共部門、職種別では専門職・技術職の人の方が育休取得率は高い傾向がある。 ・ドイツでは女性だけが育休を取得した場合は12ヶ月だが、男性が取得すると2ヶ月プラスで14ヶ月育休を取得できる制度となっている。そのため、男性が育休を取得しないことで2ヶ月分の育休を損するという制度になっており、男性が育休を取得する動機となっている。なお、育児休業は子供が6歳になるまでの間で無給期間を含めると3年間にわたり取得できる制度となっている。 ・ワタジマさんはドイツ人のパートナーと結婚されている。結婚にあたって、婚前契約を結ぶ話があった。結婚する前から離婚も想定して契約書を作成するということに対しては抵抗があったため、契約書自体は作成しなかった。ただ、結婚の条件として「育休取得」を提示され、ワタジマさんはこれを承諾した。結婚当時に働いていた窯元はお世辞にもワークライフバランスを実現しやすい環境ではなかったため、もっと家庭と仕事を両立しやすい働き方を求めて窯元から独立して夫婦で陶芸家として生業を立てるようになった。実際に個人事業主として働き始めると、家庭と仕事は両立しやすくなった。夫婦で妻は得意なデザインなど、ワタジマさんは作品の製造やイベント企画などを担い、また家事や育児も分担することができるようになった。 ・実際に子供が生まれてから、ワタジマさんは少し仕事をセーブして働いていたが、その間は収入が減少し、そうした減少分を補填する制度はなかった。日本の育児休業制度は雇用保険として機能しているため、個人事業主やフリーランス等の雇用関係にない働き手は給付金を受けることができない。一方で、ドイツでは個人事業主やフリーランス等も収入を補填する仕組みがある。被雇用者も個人事業主も同じ父親なのに、個人事業主に手当がない現行の制度については見直しが必要ではないかと感じる。 ・3人の子供のうち第二子で6週間、第三子で8週間の育休を取得した。 ・連邦ベースでは有休の育児休業制度と呼べるものは限られているので、勤務先の制度として最大8週間の育休制度を利用した。 ・育休中は上の子供の面倒を主に見ていた。第三子で育休を8週間取得した際は、毎日公園に行っていた。ただ、育休を取得する男性はほとんどいないこともあり、周囲の方(特に日本人)からすると、毎日公園にやってくる子供を連れたパパに職を失った人なのかと奇異な目を向けられていた感じがした。 ・育休を取得できない一方で、出産の立ち会いについては会社も理解を示してくれる。むしろ、出産の立ち会いに行かないと「なぜ行かないのだ。」と周囲から疑問を呈されるくらいに立ち会いに対しては一般化している。 【質問②】では「保育」について聞いていきます。 日本では「保育園の待機児童問題」や「保育料の問題」などが話題になることがありますが、海外の事情を聞いてみたいと思います。 ・ロンドンの保育料はめちゃめちゃ高い。BBCでは世界で2番目に保育料が高いという調査結果が報告されていた。具体的には、8時〜18時まで保育園に預けると1日17,000円、週5日で85,000円かかることになる。これだけ高額な保育費を捻出するのは大変で、家計と相談しながら保育日数を決めることになる。キタガワさんの場合は2歳の時は週2日、3歳になって補助が出るようになって週日3日預けていた。第二子では2歳の時は9時半〜15時半で週3日、3歳になると同じ時間帯で週5日にした。 ・これだけ保育料が高いのはロンドンの物価の高さに加えて需給のバランスが悪いこともあるかもしれない。ロンドンでは恒常的に保育園が不足している。そのため、保育園側も強気で入園のウェイティングリストに掲載してもらうためにもお金を払う必要がある。こうした保育にかかる金銭面の負担が大きいことから仕事復帰をしないという選択をしないことも極当たり前の事としてありうる。 ・ドイツ国内でも都市によって事情が異なる。ベルリンでは保育料はほぼ無料で食費が少しかかる程度だが、ミュンヘンではロンドン並みに保育料が高い。 ・保育園に入園するためにはウェイティングリストがあるが、申込しても先頭から順番に入園する訳ではない。役所の担当者が勝手に順番に関係なく入園を許可することもある。また、ドイツ在住の日本人の友人が公園で子供と遊んでいたら、「最近アジア人の子供が退園したから、今度保育園に入っていいよ。」と人種の観点で入園を許可されたりすることもあった。 ・アメリカも基本的には保育料は非常に高く、8歳になる第三子の保育料は週3回9時〜11時半の通園で月8万円ほど。5歳にありキンダーガーテンに入学する無料になる。育児休業制度と同様に、連邦が保育に対して何かをしてくれるということはない。住んでいる市などによって、3歳や4歳から無料のところもある。 ・保育園の選択肢は非常に大きい。中国語をはじめとする語学教育を提供する施設などもあれば、遊び中心のところもある。また、保育園によっては教会などの宗教施設が運営していたり、さまざまなカラーがある中で選択できる。 ・食事に関しては日本の公立幼稚園や保育園を上回ることはないと思う。フライドポテトあるチョコレートがついたパンなど、日本の保育園では到底考えられない質の食事が提供されることがある。 【質問③】では「育児環境」について聞いてみます。 イントロの「はじめてのお使い」にもありましたが、子供に対する親の監督責任の考え方や、仕事と育児の両立のしやすさなどについて聞いていきます。 ・小学生のうちは親が学校の送り迎えをするのが当たり前。特に小学5年生辺りまでは親が付き添うのが普通。 ・以前、自転車で子供と近くの公園にサイクリングに行った際に、少し立ち止まって下の子供のケアをしている際に、上の子供が一人で自転車で先に行ってしまった。そうしたら、脇を通ったトラックの運転手が「あっちに子供が一人で自転車で行ったぞ。」と教えてくれて、急いで追いかけていった。それくらい子供はきちんと親の監督下に置くことが求められる。 ・一方で、1970年代は大半の子供が一人で学校に通っていたということを聞いたことがある。恐らく子供が一人で通学することによって事件事故に巻き込まれたりということがあって、少しずつ今のように親が監督するということが一般的になってきたのではないか。 ・ドイツでは子供が一人で学校に行くということに抵抗はない。また、子供が一人で近所の公園に遊びに行くことについても、例えば、マンションの横の公園に子供が一人で行くくらいなら問題ない。 ・比較的日本の感覚に似ているかもしれない。 ・自分一人でもニューヨークを一人で歩くリスクを考えるくらい治安は意識している。特に、最近ではアジア人のヘイトクライムが発生したりしているため、気をつけるようにしている。まして、子供を一人で歩かせることや電車をはじめとした公共交通機関にのせることは想像できない。もし、街を一人で歩いている子供を見かけたら心配して通報することを考える。アメリカにおいて治安が悪いことに伴う社会的なコストは非常に大きいと感じる。 ・子供たちの小学校ではアクティブシューティングトレーイングという訓練があり、銃を持った不審者が学校に侵入した際のトレーニングをしている。 ・アメリカでは学校の保護者会に母親が来るという習慣は全くなく、性別的な分業意識が日本より薄い。一方で、日本人学校の保護者会に参加した際はほとんどが母親が参加している。アメリカで保護者会をして全員が女性ということはどんだけサイコロを振っても確率的に起こり得ないことだと感じ、海外で10年以上子育てを経験している身としては日本の性別的な役割意識には違和感を感じる。 ・まず英国での「パートタイム」は週一日から四日勤務する雇用形態のことを指しており、フルタイムは週五日勤務を指す。柔軟な働き方の例としては、時短勤務、JobSharing(複数名で仕事をシェア)、フレックス勤務(週5日間ではなく4日間で仕事を終える等)、学期間労働(子供が学校に通っている時期に働き、休暇期間中は仕事を休む)等が政府から例として提示されていて、各企業や組織の判断で導入している。 ・終身雇用がほとんどないので、「会社人間」はいないし、会社のために尽くすという働き方は稀。会社に尽くしてもくびにされることもあるし、上司と飲み会で仲良くなろうという感覚も日本ほどはない。日本よりもドライな職場関係。仕事ができるか、できないか。 ・金曜日の午後は打ち合わせを入れないという不文律があり、午後は早々に帰宅して子供を迎えに行って、家族で過ごすという文化がある。 今回はゲストをお招きして海外の育児事情をお伺いしました。 海外の育児事情を聞くと、「保育料が年間で数百万円」、「子供を外で1人では歩かせられない」、「育休取得が結婚の条件」など、日本とは異なる点が多くありました。国が違えば風土も違いますし、また文化的な背景も異なり、当然に育児のあり方も異なってきます。 さらに言えば、一つの国の中でも住む地域によって、住む地域の中でも住む人の価値観によって、育児のあり方は異なってくるかもしれません。 みなさんのお話をお伺いする中で感じたことは「育児のあり方に絶対の正解はなく、それぞれの置かれた環境や価値観に基づいて自分らしい育児をデザインすることが大切」ということなのかもしれません。 本記事は「パパ育コミュ」の月一イベントの内容をもとに執筆しています。 パパ育コミュは、まだまだ珍しいパパの育児や育休に関するコミュニティです。 Line公式はこちら。キタガワさん「育児休業制度を使わずに有給休暇で約3ヶ月間の育休取得」
ワタジマさん「結婚の条件が育休取得(ドイツ人パートナー)」
Tomoさん「勤務先の制度として第二子で6週間、第三子で8週間の育休取得」
【海外育児②】保育の質
キタガワさん「保育料で世界第2位の水準で、週8万5千円!?」
ワタジマさん「保育料はベルリンは無料、入園の順番は役所の担当者の気分!?」
Tomoさん「保育料は半日保育で月8万円。食事はフライドポテト!?」
【海外育児③】育児環境
キタガワさん「小学5年生までは親の送迎が当たり前。1人で外出は考えにくい。」
ワタジマさん「ドイツは公園に1人で行くのは大丈夫。」
Tomoさん「子供を1人で歩かせるのは全く想像できない。」
キタガワさん「柔軟な働き方が整備されている。」
Tomoさん「会社人間はいない。金曜日の午後は家族で過ごす。」
【まとめ】育児に正解はなんてない!?
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