【男性育休】男性育休の困難 取得を阻む「職場の雰囲気」(齋藤早苗著)

男性育休の“必読書“

■本の内容〜男性育休を妨げる「職場の雰囲気」はみんなの問題〜

男性育休の困難は「職場の雰囲気」が要因というのは厚生労働省が実施したアンケート調査からも分かっていますが、「職場の雰囲気って何❓」という問いに対して育休取得者やその周囲の同僚まで対象を広げて実施したインタビューをもとに学術的に分析した一冊です。

本書の結論〜男性育休を拒む“職場の雰囲気“の実態〜

著者の論文をベースにしているので少し文体が硬い印象を受けたのですが、結論は分かりやすくまとまっていました。

p179「日本で男性が育児休業制度を利用できないのは、性別的役割分業意識よりも深層にある〈仕事優先〉の時間意識が、①常に〈仕事優先〉の働き方を要請するとともに、②「どちらか一つを選択するしなければならなかいと思わせる「しかけ」」によって、仕事か育児かという二者択一の選択を迫られるからだ。その「しかけ」があるために、③性別役割分業の実態に沿って男性は仕事、女性は家事・育児を「選択」するように迫られる。こうしたメカニズムが、男性が育児休業制度を利用することを難しくさせているのである。」という結論です。

結論を支える豊富なインタビュー

この結論を補強するために本文で様々なインタビューとそこから得られる分析や知見を本文では記載しています。

また、本書において新しい学術的視点として「職場の雰囲気」を「管理職や業務状況から押し付けられるもの」ではなく「様々な職場成員(構成員?の誤植)との相互作用の中に置かれていることで生じる困難」として結論づけ、当該結論を補強するために育休取得者以外の長時間労働をする正社員に対してもインタビューを実施しています。

メッセージ〜男性育休の困難は、働く私たちみんなにとっての困難〜

そして、最後に「育児と仕事の両立の困難は、当事者に帰責されるものではない。むしろ、当事者ではない正社員が維持し、再生産する困難だ。このように考えるなら、男子育休の困難は、働くわたしたちみんなにとっての困難なのである。」と結んでいます。

つまり、長時間労働が前提となる現代の職場環境において育休を取得することでその前提からはみ出した者は上司のみからではなく同僚から村八分の待遇を受ける懸念があるからこそ、男性は育休を取得できないというメッセージを提唱しています。

■感想〜“働き方改革“は“生き方の再考“〜

著者が本著で言及する職場の同僚たちから醸し出される雰囲気はサラリーマン生活を送っている人の誰しもが感じるものではないかと感じました。

窮屈なサラリーマン生活

たとえば、

夏休み前に「すみませんが夏休みを取得します。パソコンは持って帰ります。」と言って夏休みを取得すること。

17時に仕事が終わっても、18時までは基本的に残業すること。

先輩よりも先に仕事が終わっても帰るときは「何か手伝うことはありますか。」と一言かけないといけないし、「帰っていいよ。」と言われても「お先に失礼します。」と言わないといけないこと。

さらに、管理職は部下よりも先に帰ってはいけないという暗黙のルールが未だに存在する職場もあります。

一方で、「家族でご飯を食べたいので今日は17時に失礼します。」という人は見た事がないし、急な仕事が入ったら「明日は有給休暇で子供と遊園地に行く約束をしているので、出社できません。」とはなかなか言えません。

日本特有の労働文化〜家族よりも仕事優先〜

日本特有の、よく言えば“同僚への気遣い“、悪く言えば“家庭よりも仕事が優先という暗黙の了解“があるのだと思います。日本では許されないこうした家族優先の生き方ですが、欧米では当然の働く上での前提だと思います。

では何故欧米では家族が優先されるのでしょうか。それは、欧米では宗教が生き方のベースにあり、その生き方の上に働き方があるためだと思います。日本(特に戦後)は生き方の規範となるものが不明瞭です。高度成長期に築き上げた猛烈サラリーマン文化が今なお働き方を土台にあり、これがサラリーマンの生き方の規範になっているのだと感じています。

男性育休の普及に必要なのは“生き方の再考“

現在欧米の働き方を踏まえて働き方改革をしようとしています。しかし、欧米の働き方をいくら研究して真似たところで、働き方の土台となるはずの生き方が不明瞭な限り、いくら欧米の働き方を導入しようとしても根本的な解決にはならないように感じています。つまり、猛烈サラリーマン時代に作り上げられた前時代的な働き方に関する労働文化を変えるとともに、しっかりと“生き方“を見つめ直さなれけば男性育休の困難は解消しないのではないでしょうか。

最後になりましたが、男性育休の困難の根底にある「職場の雰囲気」の裏には戦後の激動の中で生き方が不明瞭になった時代に猛烈サラリーマンが欧米列強に追いつく過程で築き上げた“職場優先“という労働文化があることは間違いないと思います。本著の分析のとおりだと思います。

ただし、それを変えていこうとした時に、働き方改革だけに焦点を当ててもダメなのです。本当にやらなければならないことは、“働き方“改革ではなく、本来働き方の前提にある“生き方“を再考するということではないでしょうか。

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